恐怖・絶叫の血まみれ屋敷
いつもより少しだけ長めです。
迷路の順位は、俺・御加賀見・幸広・萌田・祐史の順だった。
幸広の前言通り、俺はスルーされたが。
御加賀見は少し頬を染めて、「わたくしは、大観覧車で雅紀と御一緒したいですわ」と言った。
幸広は、「ここはレディーに譲るよ。天使ちゃんどーぞー?」と言って自分もスルーさせた。
萌田は「え、ええ、ええ、ええと、じゃあ、お、お化け屋敷……、辰巳君、い、いいですか?」
いいもなにも俺には決定権ないらしいしな。
正直祐史のラストは意外だったが聞いてみて納得した。
一人になった途端、断ってもかわしても拒絶しても離れない肉食レディにつかまり逃げ回ってたんだとか。憐れ。
ちなみに御加賀見は注目も浴びるが撥ねつけオーラも半端ないし、幸広はスルー技術が第一級品、危ないのは萌田だが今回は親切なおばさんを呼び寄せたおかげでオッケーだったらしい。
俺? 俺はもちろん誰も寄ってこないので、勘の導くまま進んでたらあっさりゴールしたけどな。
と、前置きは長くなったが、現在お化け屋敷の前にいる。
お化け屋敷とは、乗り物に乗って進んでいくタイプや、ヘッドフォンをして音声でって結構幅広いと思うが、ここのは自分の足で進んでいくタイプだ。
「よ……よよよよよよろしくお願いします、辰巳君」
萌田はガタガタと震えながら、半分涙目でそう言ってきた。
「……そんな怖いなら、やめればい……」
「いえ! ぜひ、ぜひ一緒に。こ、怖いけど、楽しみでもあるんです……!」
やめればいいんじゃないか、と言いかけた俺を遮るように、萌田はそう言った。
まあ、怖いけど好き、っていうこともあるだろうしな。
俺はそう納得した。
まず先に俺と萌田、後に祐史・幸広・御加賀見で入ることとなった。
「じゃあ、行くか?」
「は……はい!」
俺達は、お化け屋敷の中に入った。
入った途端、薄暗い室内に、萌田がびくりと身体を震わせた。
「大丈夫か?」
「あ、ああああの、辰巳君。申し訳ないですが、くっついていてもいいですか」
「……構わないが」
「あ、ありがとうございます!」
くっつく、と言われ、俺が思ったのは裾をつかむ、もしくは腕にしがみつく、だった。
まさか、こんな体勢とは誰が思うだろうか。
「……あの、萌田?」
「は、はい。これで大丈夫です。どうぞ、先に進んでください!」
萌田がとった体勢は、俺の後ろから背中に張り付き、頭のてっぺんをを背中にぴったりくっつけるものだった。
顔は完全に地面を向いており、たぶん目はかたく閉じているのであろう。
俺が進みだすと、萌田もそれに倣い進む。俺が止まると、止まる。
お化け役は置物や機器ではなく人がしているのだが、まったく俺は怖くない。
どちらかというと、間抜けに思える。
驚かせるつもりで出てきて、俺が冷めた目線で見返すので、お化け役の人も視線が泳ぐ。そこで萌田の方を見ると、なんとも言えない表情をした。
ああ、気持ちはわかる。
しかし、萌田。
おまえ、それでいいのか。
今の状況、目を閉じて暗闇の中歩いているだけだぞ。
お化け屋敷の意味まったくない。
が、萌田はがっちりとしがみついてて離れる様子はない。
そんなこんなで俺と萌田はお化け屋敷の出口まで辿りついた。
ラストはお化け役の人が、わーっと襲い掛かりついてくる仕掛けになってるらしく、本来であればここで小走りで駆けぬけて終了となるのだろう。
しかし、俺は別に怖がってない上に、萌田にしがみつかれて走ることも出来ない。
お化け役の人も、それが仕事なのでパスは出来ないのだろう。
怖がりもせずゆっくりと歩く俺に、お化け役の人が平行して歩くという、間の抜けた微妙な空気の中、お化け屋敷は終了となった。
お化け屋敷から出た萌田は、やっと俺から離れて顔をあげると、「あー、怖かった」と笑った。
……マジですか。
ちなみに遅れて出てきた祐史、幸広、御加賀見はというと。
幸広が笑っていて、御加賀見が怒っていた。
「信じられませんわ、この男! 始終お化けに扮装された方を指差して大笑いしてるんですもの! せっかくの雰囲気が台無しですわよ!」
「だって笑えるんだから仕方ないじゃないかー、あっははははは」
「……この人達、はじめから終わりまでこんな調子だったんだよ」
そんな二人を見ながら祐史は疲れたように、そう言った。
……何でお化け屋敷を選択したんだっけか、意味不明。
…………………………はあ、疲れた。
あ、またアトラクション内の描写がほぼなかったですね。
じゃあ、お化け役の人が血まみれの扮装ってことで。




