ランチタイム
今回のたつみんは一転・しゃべりません。
「あの、お弁当、わたしもご一緒していいですか?」
「あら、どうぞ。わたくしもお話してみたいことがありましたの」
「わー、お姫様こわー。テーマはイビリ倒します? それとも、認めなくてよ、かなあ」
「こんな頭の軽い方のおっしゃりは無視してくださいね。さあ、どうぞ」
「あ、ああああありがとうございます」
「あれー、天使ちゃん初めて話すけど、おもしろい喋り方するんだねー。うけねらい?」
「て、天使ちゃん? い、いえ。ちょっと緊張して」
「だから、無視していいですわ。お座りになって」
「は、はい。すみません。わあ、辰巳君のお弁当おいしそうですね」
「たつみんの弟君作だって。なんかすっごいこだわりもって作ってそうだよねー。栄養価とかバランスとかカロリーとかいろどりとか。男子中学生作には見えないしー」
「弟さん、中学生なんですね。わ、わたしには兄がいます。大学生の」
「3年だってー。あとたつみんはお姉さんもいるらしいよー、大学生の」
「あなた、勝手に人の個人情報お話しするのやめなさい」
「えー、これくらいいいよねえ、たつみん?」
「ご…ごめんなさい。わたしがよけいなことを」
「んー? 別にいいんじゃないのー。ねー、天使ちゃんはお弁当ー?」
「その、天使ちゃんと言うのは」
「諦めなさい、言っても無駄ですわ」
「は、はあ。そ、そうですね。私はお弁当です」
「へー。どれどれ。かわいいお弁当だねー、女の子っぽい。自作ー?」
「は、はい。一応。まだまだですけど」
「そんなことないよー。卵焼きにウインナー。ブロッコリーにプチトマト。小さく丸めたおにぎりボールかー。うん、よくまとまってるねー」
「ありがとう、ございます」
「くらべてお姫様、お重だよー。しかも玄人作の。ぷぷぷー、ひくわー」
「わたくしの家のシェフの手作りですわ。失礼な方ね。どこがひくとおっしゃるの」
「いっかいの高校生のお弁当が、家の専属シェフってところかなー。ねー、お姫様住んでる世界間違ってない?」
「雅紀がいるところがわたくしの世界ですわ。あなたこそ、その話し方なんとかなりませんの?」
「お姫様には言われたくないなー」
「あ……あの」
「あら、ごめんなさい。つい」
「天使ちゃん、なにー?」
「え、と。幸広君、もしお昼がパンだけなら、よければわたしのお弁当少し、ど、どうですか?」
「んー? ありがとー。でも気持ちだけもらっておくね。まわりの男子の反応こわいしー」
「そ、そんなこと」
「そんな男放っておきなさいな。それより、あなた、眼鏡はどうされたの? コンタクトですの?」
「い、いえ。もともと目は悪くなかったので」
「おさげも、よほど編むのが下手なのかしらと思っていましたけど。下ろされたら、ずいぶん綺麗なウェーブのかかった髪でしたのね」
「はい。もともと天然パーマなんです」
「どうしてわざとあんな格好なさってたの? 眼鏡を外したり、髪型を変えたのはなにかありまして? 雅紀とはどういった繋がりでそうなされたのかしら。 ぜひお聞きしたいですわ」
「お姫様なんか姑くさー。でも僕も気になるなあ」
「き…きっかけ、というか。あの、辰巳君が……」
「雅紀が?」
「たつみんが?」
「ど……どんなわたしでも、気にしないと……」
「雅紀……」
「わー、たつみんのたらしー。でもそんなたつみんだから、いいんだよねえ」
「な、なので! わたしはわたしらしく無理しないことに決めたんです。無理をしても、駄目ということがよくわかりましたし……」
「……まあ、大体の流れはわかりましたわ」
「僕も。天使ちゃんもたつみんの魅力のめろめろーなわけだー」
「め…めめめめめめろめろ? い、いえ。ああ、そうではなく、いえ、でも、あの」
「落着きなさいな」
「は、はい。あ、あの別にその、辰巳君に魅力がないとかではなくてその、わたしは辰巳君とは、その、お…おおおおおおおお友達に、な…なりたいというか、その……」
「まあ! そうでしたの。ではわたくしともぜひお友達になってくださいませ」
「は、はい」
「お姫様懐柔策にでたねー。変わり身はやー。ひくわー。でも、お仲間お仲間ー。たつみんの魅力にめろめろ仲間ー」
「あの、でも」
「魅力は別に恋愛絡みだけってわけじゃあないからねー。たつみんの人間的な魅力にめろめろ~」
「に、人間的……。そうです、そうなんです。わたし、それなんです……っ」
「まあ、よかったですわ。安心しました。あなたとは、これからも仲良くできそうですわ。どなたかと違って」
「それって僕のことかなあ? お姫様、厭味ったらしいことばっか言ってると厭味ったらしい顔になるよー? あははははー」
「うふふふふ、あまり図に乗ってますと、後がこわいですわよ……?」
「あ、あああああああああの」
「雅紀、どこに行かれますの?」
「たつみん、どこ行くのー?」
「辰巳君、行かないでください」
……だっておまえら、俺別にいなくてよくね?
たつみん、脱走に失敗した!