これがふたりの通常運転
ちょっと短めです。
「おはようございます、千草さん。遅刻だなんてマナーがなってないですね」
「あなたこそなんですの? もしかして一緒にいらっしゃるおつもり? そんな突然な振る舞い、それこそ失礼ではありませんの?」
「いえ、チケットをお持ちのもえさんには、了承頂いてます。どこかの誰かさんとは違って、心が広いですね?」
「まあ、人を懐柔されるのが上手ですこと。ただ、受験生は受験生らしくお家で大人しく勉強に励んだらいかがです?」
「いえ、心配には及びませんよ。一日外出したくらいでどうにかなるような成績ではないつもりですから」
「まあ、わたくしは受験生の姿勢というものを申し上げたつもりですわ。わかって頂けなくて残念ですけれど」
「現役の受験生としては、たまにの息抜きは必要かと思います。わかって頂けなくて残念ですが」
「ふふふふふふふ」
「あはははははは」
「たつみーん、これ見てて面白いけど、止めなくていいのー?」
「……関わりあいたくない、面倒だし、どっちにしても止められないし」
「た、辰巳君、あ、あの、お二人はもしかして喧嘩しているんですか? どちらも笑顔で声も穏やかですが、その、あの、会話の内容が……」
「……放っておいてくれ。これが通常運転なんだ」
「そ、そうなんですか……」
「ふーん、たつみんも苦労さんだねー。でも弟君いると、お姫様もイキイキだねー」
「……は?」
「いわゆる、ライバルがいると輝く、ってやつだよ。ね、たつみん」
……こいつの言ってることはよくわからん。
が、そろそろ予定の電車が出るのでやめてもらわんと乗り遅れる。
だから、誰か……。
「たつみーん、電車の切符まとめて買っとくねー」
「た、辰巳君、みなさんの分のお茶と軽食、買っておきますね」
……行動早いなお前ら。
そーすっと、自動的にこいつら止めるの俺の役目か。
はあ、面倒くせえ……。
「おら」
ぽすっと、俺は二人の頭に軽く手刀を落とした。
「に、兄さん」
「ま、雅紀」
「そろそろ行くからやめろ」
「だけど雅紀……」
「兄さんでも……」
「これ以上続けるなら二人とも置いていく」
「ごめんなさい、雅紀」
「兄さん、ごめん」
謝るふたりに、俺は溜め息を吐いた。
はあ、面倒くせえ。俺こそこのまま帰りてえ……。
次回は電車の中の予定です。




