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墓穴

今回のたつみんはよくしゃべります。

 どうか俺をあいつらのいない世界に飛ばしてほしい……。


 ああ、やべえ。疲れすぎて中二病的なことを考えちまった。


 でも可能なら本当にあいつらを別の世界に飛ばしてほしい……。


 でもあいつらの執着だと、巻き込まれて一緒に連れて行かれそうで怖え。


 ああ、だからこんな意味ないこと考えても意味がないから意味がないので意味がない……。


 やべ、まじで疲れてる。


 俺はそんな埒もないことを考えながら、ぶちぶちと草をむしっていた。

 



 ただ今放課後・委員会活動の時間中。

 

 ちなみに俺は美化委員だ。


 だからと言って、別に特に綺麗好きなわけではない。


 面倒なので委員会決めの時にあまったのでいいと言ったら美化委員になったわけだ。



 ところで、美化委員の活動範囲は大きくわけて、ふたつ。


 校内と校外だ。


 校外と言っても学校の外、ではなく校舎の外、という意味だがな。


 校内は主に美化チェック活動。


 もともと清掃は私立校らしく清掃業者を入れてるので生徒の掃除時間はない。


 美化委員は校内のゴミが転がってないか、花瓶の花の水はちゃんと交換できてるか、貼られているポスターは剥がれてないか、のチェックをする。


 校外活動は花壇の手入れ、秋なら落ち葉の掃除(これはもちろんまだ経験ないが)等々。


 もちろん、敷地内の花壇や植木なんかも業者が入ってはいる。


 が、なぜか生徒の自主性云々で専用花壇があり、ここは美化委員の持分らしい。



 なら、とっとと園芸部でもつくれ。




 ぶち。


 びくっ。


 ぶち。


 びくっ。


 ぶち。


 びくっ。



 

 ……いいかげんうざい。


 先ほどから俺が草をむしるたびに、横にいる同じクラスの美化委員がびくついている。


 長いぼさぼさした天パの髪をふたつにわけて結んでいる女子だ。


 前髪が長すぎる上、分厚い眼鏡をしていて顔もよくわからない。


 こいつの名前なんて言ったか。


 ああ、確か萌田だ。萌田もえだもえ。


 ……親はなにを考えてこの名前をつけたんだ。



「おい」


「は、はははははははいっ」


 おかしいだろ、その返事。


「はっ、ご、ごめんなさい。怒ってますよね。と、ととと当然です。ごめんなさいっ」


「は?」


「わ、わたしがじゃんけんで負けたから花壇担当になっっちゃったんですものね。ほ、ほんと、ご、ごめんなさい。お、怒って、当然っ、でででです」


 確かに美化委員活動の担当エリアは最初にじゃんけんで決めた。


 その際、そのじゃんけん勝負は俺ではなく、こいつが出た。


 人気のエリアはもちろん校内(楽だから)だった中で、こいつは一番のはずれくじを引いた。


 その一番のはずれくじは人目のあまりない、そのわりには花壇スペースが広い校外エリアだ。


 誰だこんな無駄なスペースつくりやがったのは。


 が、それは別にいい。今は関係ない。


 俺は別に。


「怒ってねーぞ」


「でも、でもでもでも。……目が怒ってます」


「悪かったな。これは地だ」


「え! あ、あああああああ、ご、ごめんなさいっ。わ、わわわわわたし、わたし……っきゃ」


 そいつはあわあわと立ち上がると、いきなりよろけてこけた。


 ……なんなんだこいつ、面倒くせえな。


 こけた拍子に外れて俺の足元に転がってきた眼鏡を拾いあげる。


 ……ん?


「なんだこれ? 度が入ってねえ。なのに視界が歪んで見えるって、邪魔なだけじゃねえか」


「あ、ああああ、ごめんなさいっ。でででも、わたしそれがないと……」


「つかそのごめんなさいもやめろ。やたらと謝んな。びくつくな。まじうぜえ」


「は、はははい。ごめんな…あ、ああ……」


 そいつはしゅん、と項垂れた。


「……わたし、駄目なんです」


「なにが」


「わたしが、駄目なんです。い、一生懸命やってるつもりなのに。女子には嫌われて。かわいこぶってるって、言われて。男子には普通に接してるつもりなのに、な、なんだか自分が好きだからだろって言われて。中学の時、そ、それでいろいろ、あって。高校では、ちゃ、ちゃんと頑張ろうと思って、眼鏡したらちょっと安心できて。その眼鏡かけると、まわりよく見えなくて。ちょっと、くらくらしちゃうけど……」


「そりゃあな、こんな眼鏡かけてたら眩暈もするわ」


「今度は、目立たないよう、ひっそり生きようって決めて。髪で顔かくして、下向いていようって」


 その生き方の姿勢には激しく同意する、が。


「失敗してるだろ、そら。おまえ明らかに悪目立ちしてるし」


 今時の女子高生が、ださくてもさい服装と髪型とビン底眼鏡とって、お笑い芸人目指してるようにしか思えん。


 しかも言動もきょどりすぎてて、胡散臭いことこの上ない。


「え……ええええええええ!」


「それにこんな眼鏡して髪で目え隠してたら視力悪くすんだろ。今すぐやめろ」


「……え、はい、でも」


「俺は、おまえがなにしても気にしねえよ。たとえ、いきなり阿波踊りしだしても漫才はじめても。だから、いちいち俺のことは気にすんな。鬱陶しい」


 まあ、本当に踊り出したら変な奴だとは思うだろうが。


「あ……阿波踊り、ですか」


 萌田はきょとんとした。


 そして、突然ぷっと笑った。


「しませんよ。阿波踊り」


 くすくすと笑いながらそう言う。


「だから、たとえばの話だ。とにかく、俺はやたらと謝られたりきょどられたりびくつかれたりする方のが嫌なんだよ」


「本当に、本当に辰巳君は、わたしがどうであっても気にしないでいてくれますか……?」


「ああ」


「……そう、そうですか。はい、ありがとうございます。辰巳君……」


 髪で隠れて見えない萌田の表情は笑みをかたどっている気がした。





 俺は、この時気がつくべきだった。


 確かに萌田は言っていた。


 それらのキーワードを。


 女子。嫌われる。かわいこぶって。男子。好かれる、勘違い。


 悔やんでも、悔やみきれない。


 後悔。それは、後から悔やむこと。昔の人はよく言った。まじで。




 翌日。


 いつものように、御加賀見と教室に入ると、妙にざわついていた。


 その中心にいたのは。


 御加賀見とはまったく別方向の美少女。


 ふわふわの髪をなびかせ、そのよう表情は天使のように愛くるしい。


 彼女は、俺を見ると少しはにかんだ様子で微笑んだ。


 そして、萌田もえの声こう言った。


「おはようございます、辰巳君。これからも、よろしくお願いします……ね?」






 ………………ああ、頭が痛え。

最初にこの回書きはじめた時のサブタイトルは「天使」でした。

書き終えた時には「墓穴」と書きかえました。

不思議ですね。

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