メール 2
父が憐れです、回。
『お母さん、またお父さんは家に帰れそうにないです。また休みが潰れました。お母さんはどうですか』
『仕事』
『そうですか。子供たちに申し訳ないですね。親がついていてあげられなくて、不安なこともたくさんあると思うのに』
『大丈夫じゃない?』
『大丈夫は大丈夫で少し寂しい気はします。美沙に雅紀に祐史。みんな良い子に育ってくれましたが』
『親はなくても子は育つ』
『……確かに、それはそうなんでしょうが。では親の役割ってなんなんでしょうか』
『金銭』
『……確かに、それはそうなんでしょうが。それだけでは寂しいです。お母さんが寂しくないですか? お父さんはみんなに会えなくて寂しいです。寂しい……』
『うざい』
『お母さんひどいです。って言うかせめて電話で話したいです。声聞きたいです。メールだけなんて寂しいです』
『まじうざい。メールも禁止にするわよ』
『ごめんなさい。それだけは勘弁してください。本当は会って話して一緒に食事してお出かけしてお休みなさいして朝起きたらおはようの挨拶してというか一緒に暮らしたいの我慢するからお願いです』
『仕方ないわね』
『ありがとうございます。で、あの、最近お母さんはいかがですか』
『最近? 最近はちょっと不作かしら。
わたしの好みとしてはやっぱり二人組がいいわけよ。
大集団で数出せばいいってもんじゃないのよ、これわかる!?
その集団からお気にの子選んで応援するとかってわけわかんない。
まあ、そういう趣向も否定するわけじゃないけど?
ソロもねー、難しいところよね。
確かにひとりで売り出すってことはそれだけレベルは高いわけよ。
でも、やっぱり関係性って大事じゃない?
比較ってよりポイント高いわけよ。
A君とB君。
顔はA君のがいいけど、B君の演技のがうまいわーとか。
歌を歌わせてみた時の、声のハーモニーとか。
同一タイプもおいしいけど、やっぱり、別タイプのがいいと思うの!
せっかくの二人、という対比に、それは必須だと思うのよ。
たとえば、わんぱくタイプに冷静な優等生タイプとか。
純真無垢なタイプに腹黒タイプとか。
おっちょこちょいなタイプにフォローがうまいタイプとか。
ああ、駄目ね。みんなありきたり。
どこがこう、血がわき肉躍るような子だち、デビューしてきてくれないかしら?
……って最近思ってるわね』
『……お父さんが聞きたい最近というのはそういうことではないです……』
『は? あ、もうこんな時間。これからコンサートはじまるから、じゃあね』
『お母さん! お母さんはお父さんとアイドル、どっちが好きなんですか』
『は? 馬鹿じゃないの、アイドルに決まってるでしょ』
『……たとえお母さんがそうでも……僕にとっての一番はいつも君だから』
『……本当馬鹿。今度、そっちまで会いに行ってあげるから、それまでおとなしく待ってなさい』
母はどうやらツンデレだった模様。




