御加賀見千草の苛立ち
お姫様回です。
「まったく、思い通りにいかないことばかり。腹立たしいったらないですわ」
千草はバスルームから出ると、濡れた髪をタオルでふきながらベッドの上に腰を下ろした。
バスルームは部屋にも併設されている。
大きい浴槽につかりたい時は、屋敷の中心にある浴室を利用するが、普段は部屋付のバスルームを利用することが多い。
浴槽は小ぶりだが、なにかと便利だからだ。
気にいっているバスソルトにシャンプー・トリートメントの香で幾分気分は和らいだ。
が、完全には払拭されなかった。
萌田もえ、悪い娘ではない。
逆に良い子すぎるとは思う。
雅紀がもえのようなタイプが好きかというと、そうではないとは思う。
けれど、誰だって『悪い』子よりは『良い』子の方が良いだろう。
今のところ、もえは雅紀に恋愛感情を抱いていない様子だが、今後に注意は必要だ。
あの兄の存在は苛立たしいが、逆にもえから雅紀を遠ざける要因になるには違いないから、まあ良しとする。
しかし、幸広雪路。
人をおちょくっているかと思うような、あの態度。
なにを考えているかよくわからない、あの言動。
雅紀のことを好いているのは間違いないと思う。
よもや恋愛感情ではないだろうが。
しかし、もえと違ってあの男は読めない。
ふざけた態度で隠しているのか、あれが地なのか。
雅紀にとって、それがもし悪いものに変わるのであれば……。
今後も注意が必要、そう千草は改めて思う。
『たつみんの支障となるものを排除したいと思ってる?』
『たつみんをひとりじめしたいの?』
そう、問われたことを思い出す。
もちろん、ひとりじめしたいに決まってる。
雅紀を困らすものを、排除してなにが悪いの?
そう思う気持ちがある反面、あの幸広が言った言葉が耳に残る。
見解の相違。
確かにそうかもしれない。
わたくしは雅紀のことを決して傷つけることなく守りたい。
あの男は雅紀がたとえ傷ついてもその行動を見守りたい。
きっとそういうことなんだろう。
きっとどちらが正しいとも間違ってるとも言えないことだろう。
雅紀……。
思うだけで、胸があたたかくなる。
こんな気持ちは雅紀の存在を知ったがゆえ。
苛立たしいという気持ちも、雅紀が存在するそれが起因。
それは、きっと幸福なこと。
雅紀と出会えるまで、覚えのなかった感情。
雅紀……。
『ふふー、じゃあ僕とお姫様はやっぱり一緒だねー。わー、仲良しだー、気があうねー?』
「気なんかあいませんわー!」
ふと、いかにもあの男が言いそうな幻聴が頭をよぎり、千草は枕を壁に投げつけた。
幻聴ではあるが、実際に、確実に言ってくるであろうそのセリフ。
やっぱり、腹が立ちますわ、あの男!
お姫様、腹は立つけど嫌いではないですゆっきーのこと。
ある種認めてるんですね。
ただ認めてるけど受入NGなのが弟君です。たぶんそっちは同族嫌悪です。




