矛盾
お姫様VSゆっきーです。
「お疲れ様、お姫様ー」
雅紀ももえも、もえの兄玲一も帰った後、残っていた千草に雪路はそう声をかけた。
そんな雪路に、千草はじろりと睨んだ。
「こわー、お姫様。どしたのかな?」
「どうしたではありませんわ」
「んー? なにがー? そこそこうまくいったと思うけどー?」
「どこがですの」
千草は眉をしかめた。
「あなたがうまくまとめると言うから、わたくしは口を出しませんでしたのに」
「僕が、とは最初から言ってないよ? それに、あれは結局たつみんを挟んでの問題なんだから、たつみんがまとめた方がいい話だったよねー?」
雅紀が聞いていたら、「俺だって関係ねえ」と言いそうなことが雪路はさらりと言った。
「どこがですの? 結局は雅紀がまた変なのに懐かれただけではありませんか」
「はははー、それは見解の相違ってやつかなー」
雪路は笑って千草を見た。
「ねーえ、お姫様? お姫様はたつみんをどうしたいのー? 部屋に閉じ込めて、隠して、ひとりじめしたいのかなー?」
「……なにが言いたいんですの?」
「たつみんは、面倒くさがりで、人と関わるのが好きじゃないみたいだけど、人と関わるのが嫌いでもないんだよねー。なんか面倒見いいってゆーかー。ははー、面倒くさがりの面倒見がいいってなんか矛盾ー。お姫様は知ってるよね、矛盾の話ー。盾と矛がー、どっちのが強いっかってー」
「そんな説明は今は不要ですわ。もちろん存じてますし」
話がそれかけた雪路を千草は制した。
「うんー、そうだよねー。でも結局は矛盾なんだよー。たつみんはさー、面倒事抱えちゃうんだよー。ああ見えて器っていうかー、許容量大きいんだよねー。でもそれだと、たつみん駄目になっちゃうよねー。結局人ひとりが抱えられるものなんてたかが知れてるから。だから、きっとたつみんは面倒くさがりなんだよー。それで、自衛、というかセーブしてるんだねー、きっと」
「……だから? でしたら、なおのこと、雅紀に負担がいかないようにしてあげるべきではありませんの。わたくしは、……あなたも、その力があるんですから」
「それは、違うよ」
雪路は慈愛のこもったまなざしを向ける。
それが、千草を苛立たせる。
まるで、雅紀にとっての一番の理解者が、自分であるかと言うような、その姿勢に。
雅紀にとって、一番は千草であらねばいけないのに。
「たつみんは、たつみんの力で道を進んでいくのが一番なんだよ。たとえそれが、たつみんにとって面倒なことでも、大変なことでも。それが、きっとたつみんのためになると思うから。僕は、なにかあればそれをそばで助けてあげたいと思ってる。たつみんのこと、とっても好きだからね」
「……」
「でも、お姫様はたつみんの支障になるものを、すべて排除したいと思ってる。たつみんに気がつかれる前に。たつみんのこと、とっても好きだからね。ついでもって、たつみんの目に自分以外入らなければいいと思ってる。でもそれはちょっと行き過ぎかな」
「……思っても、雅紀はそうなってはくれないですわ」
千草は少しむくれたように顔をそむけた。
「うん、そうだね。たつみんはそうだよね。だから、まあいいんだと思うよ。僕も、お姫様もこのままで」
「なにがいいんですの」
「だから、このままで。たつみんは決して間違わない。ぶれないし、揺れない。崩れないし、寄りかかってこない。……これはちょっと寂しいけど。だから、安心して僕もお姫様も自分の好きなようにしてていいんだと思うよ。僕も、お姫様も、……たつみんだけは信じられるから。たとえ、自分のことが信じられなくなっても」
「……あなたのおっしゃってること、訳がわかりませんわ」
「ええ! 簡単なことなのに!」
雪路は大げさな様子で驚いてみせた。
「たつみんはたつみんで絶対変わらないから、安心だねー。僕も、お姫様も自由にしていいねー。でも僕とお姫様は考え方が違うから、駄目だと思ったらじゃんじゃん邪魔していくねー、って話だよ?」
「……あなた、本っ当に苛立たしいですわ!」
目くじらをたてる千草に、雪路は笑い声をあげた。
そして、怒った様子の千草に、雪路は笑みを浮かべたままそっと聞えないくらいの声で呟いた。
「……ずっと、このままでいられたらいいのに」
ゆっきーなに考えてるんでしょうか。本当に勝手に話出すのでさっぱりです。
対して千草は比較的思った通りに動いてくれます。
はてさて、この後の展開はいかに。




