自称・親友
このお話は、ひらがな過多でお送りいたします。
御加賀見家が創設した御加賀見学園は新設一年目である。
よって、現在の新入生が同時に最上級生になる。
目の上のたんこぶ(上級生)もいなければ、広い敷地・設備も使い放題。
まさに、天国なのである。
「……これで、平穏無事の生活ができるならな」
「あら、なにか言いまして? 雅紀」
「別に」
横を歩く御加賀見が声をかけてくる周囲の人間に手を振りながら、俺に振り向いた。
さらっと流れる髪が光を反射して計算してんじゃねーかと思うくらい輝く。
美少女ここに極まれり、だ。
御加賀見は目立つ。
とにかく目立つ。
当然と言えば当然だ。
創設者の家の娘で(つか創設したのはその娘当人だろうが)、本人は滅多にいないような美少女。
ついでに第一期の生徒会長も務めていて、成績・運動神経も抜群で、それでいて高飛車になることもなくまわりの人間にはいつも笑顔で対応し…。
あ? なんだかまったく同じ条件にあてはまるのが非常に身近にいるな。
やっぱりこいつら気があうんじゃないか。
もしくは同族嫌悪だな。
ともかく、そんなやつに常にそばにいられる俺の身にもなって欲しい。
なんであんなやつが、そう言われるのはかまわない。
身の程知らずと言われようが、釣り合わねーよと笑われても知るかそんなこと。
図に乗ってんじゃねーよ、と思われるのもかまわない。絡んでこられるのはごめんだが。
だが、紹介してほしいだの手紙や贈り物渡してほしいだの一緒に遊びに行く段取り組んでほしいだのそばにいればついでで仲良くなれるんじゃねーかと期待されてよってこられるのは勘弁してほしい。まじで。
俺は、極力人と関わらずに、なるべく目立たずに、平和に穏やかに地味に過ごしていきたいんだっつの。
はあ、疲れる……。
朝から登校拒否したくなる気持ちを何とか抑え、教室へ入る。
「はっろー。たつみーん! 今日も気怠げだねー。そんなところもたつみんらしくてすてきさー」
質問。
朝からいきなり自分より体格のいい男に抱きつかれたらどうしますか。
正解。
蹴り飛ばす。
「うっとーしーわ」
腹に蹴りを入れると、そいつはちょっとよろけてへにゃりと笑った。
こいつ、俺が蹴り入れるの見越して後ろに自分から飛びやがった。
「ひっどーい。たつみーん。朝の挨拶しただけじゃないかー」
「おまえは朝からいちいち人に抱きつくのか。いつか警察呼ばれるぞ」
「いちいちじゃないよー。たつみんだけだよー。たつみんは特別さ。だって僕たち親友じゃないか。ねえマイブラザー?」
「親友になった覚えもなければ、弟はひとりで間に合ってる」
「そんなー。たつみんったら、もう照れちゃってー」
そいつはふにゃんと笑って、さらに抱きつこうとしてきた。
俺はそれを避けて、こんどはそいつのわき腹に肘鉄を入れた。
今度はうまく入ったらしく、しゃがみこんでもんどりうっている。
これで、しばらくは静かになるだろう。
ああ、面倒くせえよまじで。もう帰りてえ……。
朝から過度なスキンシップをしかけてくるこいつの名前は幸広雪路。
高校から一緒になったクラスメイトだ。
長身で、髪や肌の色素が薄く、いつも柔らかい笑みを浮かべているイケメンだ。
ノリも軽く、いつも女子と戯れている。
が、なぜか初めて会った時から妙に懐かれ、俺を見かけると突進してきて抱きつこうとするおかしな習性をもっている。
まったくもって、うっとうしいことこの上ない。
その上。
「あら、おはようございます。幸広さん。今日も雅紀に迷惑をかけてらっしゃるのね。いい加減ご自重されたらいかがかしら?」
「おっはよー、お姫様。今日もとってもきれーだねー。でもたつみんにはもっとかわいいタイプの子のがあうと思うんだー。お姫様もさっさと諦めてしまえばいいのにねー」
御加賀見と幸広も顔を合わせればこの調子だ。
そして、幸広は御加賀見のことをなぜか「お姫様」と呼ぶ。わかる気はするが。
そして、幸広は俺のことを「たつみん」と呼ぶ。それはやめろ。
「諦める? なにをわけのわからないことおっしゃってるのかしら? とうとう頭にお花畑でも咲いたのかしら。雅紀にわたくし以上にふさわしい相手なんているはずありませんのに」
「ああー、とうとうお姫様、現実も見られなくなっちゃたんだね。かわいそうにー。あんなに迷惑がられてるのに気がつかないなんてー」
「あら、それは別の方と勘違いされてません? たとえば今わたくしの前にいらっしゃる方とか」
「あー、そうかも。今お姫様の前にいる人の目に映ってる人だねー、確かに」
「うふふ」
「あはは」
……お前ら、怖いっつーの。
話の中には出さなかったクラスメイト達は、彼らの日々の日課をなまあたたかい目で見守っています。
次はクラスメイトその2、いきます。