イン ワンダーランド
書いてて思いました。なんだこれ。
俺は目覚ましをOFFにすると、再びごろりとベッドに転がった。
まだ時間的に早いし、夢見が悪すぎたせいか今日はなんにもする気がおきん。
どうせ朝食には祐史が呼びにくるだろうから、このまま惰眠を貪るとしよう。
……………眠れねえ。
あー、そういやこういう時の為のとっておきの呪文があったか。
おし、羊が一匹羊が二匹羊が三匹…………~間略~……………羊が三百三十三匹……、やってられん。
俺はぐるりと寝返りをうった。
いっそもう眠るのは諦めよう。
たまにはひとりでぼんやりするのもいいだろう。
ぼー、としていれば、ぼー……………。
ぐう。
俺はふたたび眠りに落ちた。
「たいへんだー、たいへんだー。ちこくだぞー」
目の前をバタバタと幸広が走っていく。
頭にふさふさのウサギの耳と蝶ネクタイをした格好で。
うん、夢だ。
俺は即座にそう判断し、目の前の光景をスルーしようとした。
が。
幸広はいったん走り去ったもののくるっと戻ってくると、俺を覗き込んでこう言った。
「だめだなー、たつみん。ここでうさぎさんどこいくのーって追ってきてくれないと、ストーリーははじまらないぞう?」
いやはじまらなくていいから。
「ではいざレッツラゴー」
げ。
幸広が俺の手をつかむといきなり足元にぽっかり黒い穴があいて、俺はそのまま下まで転がり落ちた。
夢だってわかってんだからさっさと覚めろよおい。
気がつくと、間の前には妙な色の液体が入った薬瓶があった。
そしてメモに書いてある。
『飲んで』
誰が飲むか。
そう思ったところに、今度は背後から声がかかる。
「た、たたたた辰巳君」
振り返ると、そこには猫耳猫しっぽをつけた萌田が立っていた。
……おまえ、その格好恥ずかしくねえ?
と思ったとおり、充分恥ずかしいらしく、萌田は顔を真っ赤にしながら肉球手袋を頬の横でまるめると、猫らしいポーズをした。
「にゃ、にゃあ。よくきたにゃあ。ここは誰も彼もいかれてるにゃあ。気をつけることだにゃあ」
…………。
俺が無反応なままでいると、萌田は目にじわっと涙を浮かべはじめた。
「……にゃあ……ぐす。さあ、いくがいいにゃあ」
萌田のしっぽがぐるりとまわると、ぱっと視界が変わった。
今度はなんだ。
つかこの夢がなんなんだ。
「やあ、兄さん。ごきげんいかがかな?」
今度は花壇に囲まれた芝生の庭に、お茶会セットが現れた。
そこで優雅な姿で紅茶を飲んでるのが、祐史。
黒い大きなシルクハットをかぶっている。
役柄は言わずと知れたアレだな。
「前から思ってたんだけど、この帽子大きすぎるよね。バランス悪いったら。どんなセンスなんだか」
役柄からしてそれはおまえのセンスのはずだが。
「ま、いいか。これから女王様のところに行くんだよね。くれぐれも気をつけて。人を見ればすぐに首を刎ねよって叫ぶいかれたお方だから。んー、兄さんなら下手すると、もっとひどいことになっちゃうかも」
首を刎ねるよりひどいことってなんだ。
「じゃあね、兄さん。また後で……」
そう言うと、すっと視界がひらけて薔薇園が見えてきた。
そこには松江が一生懸命白バラに赤ペンキを塗っていた。
前から思ってたけど、これって無理あるよな。
「うわわわわ、間に合わねー。うおおおおお、まじやべー。早く塗りきらないと女王様に首を刎ねられるっ。は、じょ、女王様!?」
んなわけあるかい。
どうやら松江も別に俺を女王様と勘違いしたわけではないらしく、俺を確認するとほっと息をついた。
「な、なんだ。辰巳か。はっ、辰巳、それより早くここから逃げろ、女王がくるぞ」
いや、逃げろと言われても。
「ほほほほほ、女王とはわたくしのことかしら」
真打登場。
やはりおまえか御加賀見。
そしてその役その衣装、ハマリ過ぎてて逆になんか……。
「あまり分をわきまえない言動をしますと、首を刎ねますわよ。……あら嫌だ、雅紀、そちらにいましたの?」
夢の中でもこえーわおまえ。
「まあ、恥ずかしいところをお見せしてしまいましたわね。わたくしと雅紀のスイートホームつくりに、わたくし少し気が急いているようですわ、ふふふ」
それないから。
「ふふ、雅紀の恥ずかしがり屋さん」
ありえないから。
「あら、もうこんな時間? 残念ですわ、この続きはまたあらためて……」
残念そうな御加賀見の声が遠くなり、今度は遠くからだんだん聞こえてくる、妙に堅苦しさのある声。
「……き、雅紀、起きなさい」
はっと気がつくと、夢の一番最初にいたところに戻っていた。
そこには姉美沙の姿があった。
そこはこの展開的にエプロンドレスではないですかね。ものごっつ似合わなそうですが。
なぜにリクルートスーツ……。
「おはようございます。ずいぶんよく眠ってましたね。でも、そろそろ本当にお目覚めの時間ですよ。ほら、しっかりと目を覚まして……」
ぱち。
目が覚めた。
……夢オチネタはもういいわ。
再度夢オチです。
こういうネタではなかったはずですが、ゆっきーがウサ耳姿で乱入してくるもので……。




