夢のよう
今30分で書きました。誤字脱字は御勘弁を。
「雅紀、祐史。では姉さんはこれで戻りますけど、健康に気をつけて頑張ってください」
姉はそう言うと、あっさりと帰っていった。
祐史とバトルったことなどなかったかのようだ。
「さて、と。じゃあ僕も出かけようかな。兄さん、昼の支度しなくてもいいかな?」
ん? 普段ならいらんと言ったところで勝手に用意するはずだが……。
「僕も少し今回の件で反省したんだよ。僕はもっと僕のするべきことをちゃんとしないとかなって。あんまり兄さんに依存しすぎてるのも、駄目だなって」
おおおお? ついぞ諦めていた兄離れが今ここに。
祐史、やっとわかってくれたか。
「今までごめん。でもこれからも兄弟として仲良くしていきたいと思ってるから、よろしくね」
そう言って爽やかに笑うと、弟も出かけていった。
なんと。
災い転じて福となす、とはこのことか。
姉よ、感謝。
そして弟よ、普通に笑うとなんと爽やかな少年なんだ。
そうだ、禍々しいオーラを出すのはやはり人間として間違っている。
ぜひずっとそのままでいてくれ。
「…………俺も、どっか出かけるか」
家でごろごろしようかと思ってたが、妙にいい気分だ。
俺は簡単に身支度すると、家を出た。
「あら、雅紀」
げ。
家を出たところで、御加賀見に出くわした。
後悔。家でごろごろしてるべきだった。
「雅紀もお出かけですの? わたくし、これからアメリカへ出かけますの」
ちょっとそこのコンビニまで、の口調で御加賀見はそう言った。
「わたくしが出向かないといけない案件が溜まっているようで。困ったものですわ」
御加賀見はこの年ですでに御加賀見グループの経営に携わっているらしい。らしいというのは興味ないから詳しく聞いたこともないからだが。
「雅紀はお休み、楽しんでくださいませ。では」
ん?
やけにあっさりと御加賀見はそう締めくくると車に乗り込んで出かけて行った。
おかしいな。普通ならここで「寂しいですわ」とか「雅紀も一緒に参りません?」(行けるか)とかのノリになると思ったんだが。
もしかして、弟離れに続き幼馴染離れもか?
なんだか物事が俺に都合よすぎるぐらいに転がっていくが……。
いや、これが本当のあるべき姿なんだよな。
俺はうんうんと頷くと、軽くなった足取りで駅方向へ向かった。
駅の周辺はわりとショップや飲食店などが立ち並んでおり、フラフラしてても結構時間はつぶせる。
まずは昼飯でも食おうか、と物色していたところにいきなり声をかけられた。
「辰巳?」
「お……」
そこにいたのは、松江と幸広だった。
なんでこのふたりが一緒にいるんだ?
そんな疑問を解消するように、幸広が話し出した。
「たつみーん。はろーん。げんきー? 僕もげんきー、なんてね。今日はどーしたの? お出かけー? いー天気だもんねー。僕達はこれから映画行くんだー。えー、なんで一緒にいるかってー? それがねー、この前ばったりあって、いろいろ話してみたらけっこー気があってねえー。まっつんと僕、フレンドーになっちゃった。あははー、たつみんが結んだ友情の輪ー、なんちてー。あー、たつみんも映画行くー? ちょーちょー怖いホラーだってー。僕ホラー見て怖いって思ったことないけどねー、はははー。えー、行かないー? 残念ー。じゃあまた今度ねー」
この間俺がしたのは映画の誘いに一回首を横に振っただけ。
あいかわらずよくひとりでしゃべるなこいつ。
「あ、じゃあ辰巳、またな」
松江もあっさりそう言うと、幸広とふたり映画館へ向かって歩いていった。
これは……。
やっかいな奴とやっかいな奴がくっついて、俺から厄介事がなくなったと、そういう。
なんだ、このご都合主義的な展開のよさは。
俺に都合よすぎて、いっそ怖い。
が、嬉しい。
まじ嬉しい。
このぶんなら、俺のだらだらのんびり平穏安泰な日々はすぐそこに。
誰にも視線を浴びず、誰にもかまわれず、誰にも邪魔されず、誰にも煩わされない、そんな至福の日々が……。
ウエルカム、俺の静かな生活よ。
「辰巳君?」
よしきた。
振り返ると、そこには案の定萌田が立っていた。
さあ、今度はどうくる?
これから、「友達と出かけるんです~」とかか?
よしこい。さあこい。
しかし、萌田は俺を見て、にっこりとほほ笑んだ。
「残念でした」
ん?
「そんな、夢みたいなこと、あるわけないじゃないですか。だって、これは、夢、なんですから…………」
萌田のそのセリフとともに、急に視界がぐるぐるとまわり……。
ピピピピピ…………。
そんな、電子音で目が覚めた。
神様、夢オチはひでえ…………。
たつみん願望の夢オチでした。




