お隣……隣?
なんだかこの話、書きやすいです。
朝食を食べ終えると、時間を見計らったようにドアホンが鳴った。
朝食を食べ終える時間はまちまちなのに、ドアホンが鳴るタイミングはいつも食事を終えて、その後のお茶やコーヒーなどの一服が済んだ後。
毎度のことながらどうなんだ、これ。
監視カメラでもつけられてそうで、なんか怖い。
横を見ると、いつも温厚な弟が舌打ちをしている。
……本当、仲悪いんだよな。こいつら。
俺はバッグを担ぐと立ち上がった。
「お呼びもかかったようだし、行ってくる」
「あ、はい。兄さん。じゃあこれお弁当だよ」
弟手作り弁当ゲット。
中学は給食だし、高校には学食も購買もあるから作らなくてもいいと言ってるのに毎日用意されるこれ。弟曰く、「兄さんの血肉になる…以下略」。
……重い。
玄関に向かい、ドアを開けるとそこに一人の美少女が立っていた。
真っ黒なストレートの髪がさらさらと風になびく。
その少女は俺を見ると、輝かんばかりの笑みで微笑んだ。
「雅紀、おはよう。今日もいい天気ですわね。一緒に学校行きましょう?」
彼女の名は御加賀見千草。
隣に住んでる、いわゆる幼馴染? にあたるのか。
ただ越してきたのが小学5年の時だからどうなんだろうか。
小学4年の時、いきなり自宅の半分から左側にある住宅がことごとく買収されて整地された。
何ごとかと思っていたら、馬鹿でかいお屋敷が建設された。
完成後に引っ越しの挨拶に訪れたのは、まだ小学生だった御加賀見だけだった。
親はどうしたと思ってたら、親は別のところに住んでいるらしい。
隣に建てられた家は御加賀見のために造られた邸宅だったというわけだ。
お隣と言っていいかどうかの家と敷地のサイズの違いがあるが。
御加賀見は世界でも有数の御加賀見グループの御令嬢とのこと。
詳しい事情は今でも知らんが、なんでそんなのが一般住宅街の俺の家の横に住んでるんだろう。
……まあ、どうでもいいか。面倒くせえ。
「おはようございます、千草さん。別に毎朝兄を誘いに来られなくてもかまいませんよ。もう子供ではないのだから」
棘のある口調で弟がそう言うと。
「まあ、おはようございます、祐史さん。今日も雅紀にべったりですのね。そろそろ、兄離れなされたらいかがです? もう子供ではないのですし」
棘のある口調で御加賀見がそう返す。
これも毎朝の光景だ。
毎日毎日飽きずによくやる。
お前ら、本当は仲いいんじゃねえの。気があってるようだから。
「もう行く」
俺は、バチバチで火花を散らしてる二人の横をすり抜けて、俺は玄関を出た。
「あ、兄さん。いってらっしゃい」
「あら、待って。雅紀」
祐史は手を振り、御加賀見は追いかけてきた。
「雅紀、今日は風が気持ちいいですわね」
「ああ」
「雅紀は、昨日はよく眠れまして? 私は少し夜更かししてしまいましたわ」
「ああ」
「雅紀は、最近また少し背が高くなったのではありません?」
「ああ」
「雅紀、少しはわたくしとお話ししてほしいですわ。ですから、ああ以外の言葉で返してくれません?」
「ああ」
「雅紀は、わたくしのこと好き?」
「別に」
「もうっ。雅紀はいけずですわ」
ぷうっと御加賀見はふくれる。
そんな顔をしても美少女の顔は美少女のままなのかと少し感心する。
まあ、どうでもいいが。
俺は少し、こいつのことが苦手だ。
なぜか初めてあった時から懐かれて付きまとわれている。
あと、やることが底知れなくて怖い。
ふと、中学二年の時のことを思い出した。
「雅紀、高校はどこへ行きますの?」
「松高」
「松高? 男子高ですのね。どうしてそちらですの?」
「家から一番近いから」
「近いから、が理由ですの? そうですか……」
その翌日から自宅の半分から右側にある住宅がことごとく買収されて整地された。
それから瞬く間に私立高校が建設された。
「御加賀見家が理事で建立いたしましたの」
御加賀見は悠然とそう言った。
普通は認可とかなんだでもっと時間かかるもんじゃねえのかおい。
「これで、一番近い高校はこちらになりましたわね。もちろん、共学ですわ。これでまた一緒に学べますわね。嬉しいですわ」
「私立はなー、学費が」
「区域内生徒は入学金免除、学費も半額の制度を設けましたわ」
御加賀見は有無を言わせぬ微笑みを浮かべてこう言った。
「……これで、なんの問題もありませんわよね?」
………………俺のお隣さんは、まじ怖え。
千草の言葉遣いが異常にですわますわ調に。
書くまではツンデレにするかデレデレにするか決めかねてたのに。
実際書いてみたら高慢お嬢様調に! 次はクラスメイトいきます。