その頃の萌田兄妹
そろそろ毎日更新厳しくなってきました……。
「ただいま、もえ。いい子にしてたかい?」
「お帰りなさい、お兄ちゃん。でもわたし、もうそんな小さな子供じゃないのよ。いい子だなんて、言わないで」
「はは、お兄ちゃんにとって、もえはいつまでたっても可愛い、いい子の妹さ。それよりも、最近は忙しくて週末に帰省出来なかったからね。お土産もたくさん買ってきたよ。お菓子に洋服にアクセサリーに……」
「ありがとう、お兄ちゃん。そんなに気をつかわなくてもいいのに。だって、大学には勉強に行ってるんでしょう? 遊びに行ってるわけじゃないんだから」
「そうかそうか、もえはやっぱりいい子だね。天使のように清らかな、心の美しい優しい妹に育ってくれて、お兄ちゃんは嬉しいよ」
「て…天使……」
「んん? どうしたんだい? もえ」
「う、ううん、なんでもないの」
「そうかい? それにしても、もえ。あの仮装はもうやめたんだね?」
「か…、仮装?」
「そうそう、あのボサボサ頭のダブダブ衣装のぐるぐる眼鏡の格好のことだよ。あれはあれで面白かったけど、やっぱりもえは普通の姿の方がいいね」
「仮装……」
「あれはなんの模倣だったんだい? お兄ちゃん知っているよ、あれがコスプレというものなんだろう?」
「コ、コスプレ?」
「大丈夫、もえ。お兄ちゃんはもえがどんな趣味でも理解があるつもりだから。恥ずかしがらなくて大丈夫さっ」
「え、えと。別に恥ずかしがってるわけでもなくて……。そ、そうだお兄ちゃん。大学の方はどう? わたし、お兄ちゃんの様子が聞きたいな?」
「ああ、もえ。なんて可愛らしんだ! そうかいそうかい、お兄ちゃんの近況が気になるんだね。そうだね、お兄ちゃんはすべてにおいてベストを尽くしているさ!」
「え、えと。お兄ちゃんが頑張ってることはわかったかな。んと、大学の授業って難しい?」
「お兄ちゃんにわからないことなんてないよ。だからもえ、わからないことがあったらいつでもお兄ちゃんへ聞きなさい」
「え、えと。やっぱり大学ともなると、交友関係は広がるのかな」
「そうだね。やはり多くの人間が行きかう場だからね。お兄ちゃんはできるだけ多くの人と親交を結ぶよう尽力しているよ」
「そ、そっか。それはいいことだよね。じゃあ最近だとどんな人とお友達になったの?」
「うんん? 最近かい? そうだね、最近は優秀な後輩が出来たよ。クールビューティな女性なんだけどね。ああ、でも彼女には後輩としての感情しかないので嫉妬はしなくて大丈夫だよ、もえ」
「し、嫉妬? 別にしないけど、その人ってどんな人?」
「ふふ、しないと言いつつ気になるんだね。もえはちょっと素直じゃないなあ、でもそんなところも可愛いけど。そうそう、その彼女という人はね、少し恥ずかしがり屋さんの様で、ついつい奥に引き込みがちだから、お兄ちゃんは出来るだけ気をつけて声をかけるようにしてるんだよ」
「そうなの。それはきっとその後輩の人もお兄ちゃんに感謝してるね」
「やっぱりもえもそう思うかい? でも彼女はもえの何倍も素直じゃなくて、大丈夫、いりません、話かけないでください、寄ってこないで下さい、とつれないんだよねえ。こういうのをいわゆる、ツンデレっていうのかな、もえ?」
「え、えと。あ、あの。本当に、その人恥ずかしがり屋さんなのかな。そ、それ本心ってこと……」
「そんなはずないじゃないか、もえ。お兄ちゃん、そこまで鈍感ではないよ。ははは」
「そ、そうだよね。……そうでありますように」
「んん? ところでもえはどうかな、最近は?」
「あ、そうなの。わたしにもお友達出来たの」
「そうかいそうかい、よかったね。で、もえ、そのお友達はどんな素晴らしい女の子なんだい? よければ一度お兄ちゃん、あわせてほしいな。もえにそのお友達がふさわしいか確認してみたいしね」
「そ、そんな。ふさわしいなんて。逆にわたしの方がふさわしいかどうか、の話だもの」
「もえ以上に素晴らしい女の子なんているはずないじゃないか! もっと自信を持つべきだよ、もえは」
「う、うん。ありがとう、お兄ちゃん。でもね、その、女の子のお友達も出来たんだけど、その、今わたしが言ったお友達はね、……男の子なの」
「……男の子?」
「うん、そうなの。とってもいい人なの。優しくて、落ち着いてて……、素敵な人なの」
「……もえ、その子のこと、……もっと詳しく教えてくれないかな……?」
天使ちゃんはお兄ちゃん、もてあまし気味のご様子です。
その様子にまったく気がつかない鈍感なお兄ちゃん。
はっきり言ってもどうせ気がつかないから言えばいいのに、と思う萌田兄妹でした。




