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姉・辰巳美沙の苦悩

とうとう姉登場です。

 私には弟がふたりいる。


 現在高校1年生と中学3年生。


 どちらも甲乙つけがたい、大事な可愛い弟達である。


 高校1年の弟は雅紀という。


 愛想がなく無口なたちであるため誤解を受けやすいが、心の優しい根はまじめないい子である。


 どうにも一部の人間に熱狂的に好かれる傾向があるようで、特に隣の女の子の雅紀に対する執着には驚かされるものがある。


 雅紀が良いならそれでいいが、もし困ってるなら姉としてなにを敵にまわしても弟を守っていきたいと考えている。


 普段が非常に面倒くさがりでだらけているように見えるので、先生から将来が不安と言われることも度々だったが、わたしはあまりその心配はないと思っている。


 あの子は自分に振られた役割は放棄することなくきちんと果たしているし、将来のことだってきちんと考えている。


 ただ、人とのコミュニケーションをとるのを非常に面倒くさがる傾向にある為、将来の職業には人と極力相対しないものを、と考えているらしい。その為の努力は惜しまないことも知っている。


 人によっては後ろ向き、と考えるかもしれないが、自分の適性をみて選択することは、決して悪いことではない。


 そういう意味では雅紀は自分をよく知って、理性的に考えていると思う。


 あの子の場合しようと思えば、恐ろしいことにあの子に執着している隣人の子の財力を頼ることだってできてしまう。


 ただ、雅紀にはそんな考えはまったくもってない。


 自分のことは自分の力でもって、出来る限りのことで出来る範囲で、とちゃんとわかっている。


 目先の楽や欲に流される者が案外と多い中、あの子は自分をしっかり持っている。


 姉としてはそれが嬉しいし、喜ばしい。


 だから、なにも知らないまわりが心配するほど、雅紀のことは心配していない。


 心配なのは別の点だ。


 異様に一部の人間に好かれるということ。


 そして、その一部の中にもうひとりの弟・祐史も含まれている。


 祐史は姉のわたしから見ても成績優秀・品行方正のどこに出しても恥ずかしくない弟である。


 ある意味こちらの弟も心配はない。


 社会適応については姉であるわたしよりも、上の弟である雅紀よりも遥かに上回っているのだから。


 ただ、祐史の雅紀に対する執着ぶりは、ただことではない。


 好きというよりは崇拝に近いのではないか。


 幼いころはそうでもなかった気がするが、気がついたらああなっていた。


 このままでは、大学・就学・結婚と人生が進んでいく中で、雅紀にとって祐史が支障に、祐史にとって雅紀が支障になりかねない。


 それは如何いかんともしがたいものがある。


 姉として、わたしはふたりを本当の意味で幸せに導く義務があるのだから。


 よし、やはり今回の帰省でふたりと腹をわってよく話をしてみよう。


 


「おお、辰巳女史ではないか。どうしたんだね、そんな気難しそうな顔をして。なにか悩みごとかい」


 そんなふうに、わたしが決意を固めたところに、余計な闖入者ちんにゅうしゃが現れた。


 大学の1学年先輩の男子学生だが、どうにもこの人とは反りがあわない。


 同じ教授のゼミを選択したせいか、先輩気取りでよく声をかけてくるが、煩わしくて仕方がない。


 が、仮にも先輩ではあるのであまり邪険にすることが出来ないところが悩ましい。


 今回もただ大学の構内を歩きながら考えごとをしていただけなのに、つかまってしまった。


「別になんでもありませんが」


「嫌だな、辰巳女史。そんな顔して説得力がないよ。悩みごとがあるなら、頼りになる先輩に、この僕にぜひ打ち明けてくれたまえ」


 なに言ってるのか、この阿呆は。


「これは地顔ですが」


「それはいけないな、女性たるものそんな暗い顔をしていては。それにくらべてうちの妹の可憐で可愛らしいことといったら! その笑顔といったらまるで天使の微笑み。声はまるで天上の音楽のように、うっとりとするもので……」


 またはじまった。


 この顔がよくて背が高くて成績優秀な金持ちのボンボンの残念な点。


 それが、隠す様子のまったくないシスコンのところである。


 本来なら女性にもてて仕方がないだろうに、このマイナス点が大きすぎ、大抵の女性がドン引きする。本人も気にしている様子はないので問題はないのかもしれないが。

 

 普段なら適当に聞き流すところだが、さっきまで似たようなブラコンの弟のことで頭を悩ませていた今のわたしに、これは受け止めきれない。


 それにしてもどいつもこいつもまったく。


「辰巳女史、聞いてるかい?」


「いいえ、聞くに堪えません。それより妹君にとって、あなたのその言動は迷惑以外のなにものでもないのでは? 本格的に疎んじられる前に、一度ご自身をよく振りかえられてみてはいかがですか」


「いやはや辰巳女史、そんなわけあるはずないじゃないか。妹が僕を迷惑がってるなんてそんな。ふふ、仕方ないね。聡明な君もやはり女性ということだね」


「どういうことです?」


「僕が君と比較して、妹ばかりを褒め称えたので嫉妬したんだろう? 勘違いしないでくれたまえ。もちろん君もとても間違いなく素敵な女性だ。ただうちの妹が至高の存在にして別次元の……」


「すみませんが今すぐわたしの目の前から消え去ってください」







 一度生まれ変わってから出直してこい。

次回は姉帰省編です。

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