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狸と狐の化かしあいか、犬猿の仲か

どちらが狸でどちらが狐でしょう。

「やっほー、お姫様ー。これ終わったよー」


 そんな声とともに、生徒会室へ入ってきたのは幸広雪路である。


 御加賀見千草は、ちらっと視線っを上げると、雪路を見た。


 そして、無言で幸広が持ってきた各種予算案が記された何枚かの書類にさっと目を通すと、頷いた。


「よろしいですわ。思ったより早かったですわね。幸広会計?」


「いやいやー、そのチェックの早さには負けるよー、せーとかいちょー? てゆーか、僕いらなくないー? 全部お姫様ができそーだしー」


「もちろんできますわよ」


 当然のことのように千草は肯定した。


「ですが、生徒会は独裁政権ではありませんのよ? 生徒会長一人だけなんて制度にはできませんわ」


「実質独裁政権だけどねー」


 雪路のつっこみをスルーして千草は続けた。


「それに、わたくしの次の代になった時の為、マニュアルを残しておくことは大事なことですわ。会長は会長の、他の役員は他の役員の」


「あははー、建前って奴だねー。でも他の役員怖がって滅多に生徒会室こないけどねー」


 のんきに笑いながら言った雪路の言葉はほぼ真実である。


 生徒会の役員は会長・副会長・会計・書記2名の計5人からなる。


 会長は言わずと知れた千草のこと。


 他の役員は入試時の成績や面接をもとに指名された人間だった。


 本来は選挙で決めるところなのだが、何せ新設校であり、お互いがお互いをあまり知らない上選挙をしている時間的余裕もない。


 よって、今回の生徒会人事は初回だけの特別な施策であった。


 雪路はそれによって選ばれた会計である。


「ふう、この選択、選ぶ相手の人格までは考慮に入ってませんでしたものね。困ったものですわ」


「ええー、それは僕のことー? それとも他の役員のことー? それともお姫様のことかなー、あははははー」


「うふふふふ、いい加減にしないとその口一生使い物にならないようにいたしますわよ?」


「あはははは、お姫様、こわー」


 他の役員が寄り付かないのは、この二人が禍々しいオーラを発してるのも一因であろう。


 基本、仕事さえこなせば生徒会室にくるものこないもの自由である。


 雪路も仕事はほぼ別の場所で仕上げて、最低限しか生徒会室には訪れない。


 他のメンバーもそうしている様子だった。


 本来副会長の役割は生徒会長補佐であるが、その生徒会長が補佐を必要としないほど優秀なのである。  

 よって現在の副会長の役割は会長と他のメンバーとの橋渡しとなっている。

 

 仕事に必要なその情報はそこからもたらされるので、あまり生徒会室に出向かなくても、やっていけるわけなのである。

 

「でも僕は副会長にはたつみんを推すと思ってたけどー」


「できるものでしたらしたかったですわ。でも、事前に雅紀から拒否されてましたもの」


 他の役員メンバーとは違い、そう打診した時の雅紀の返答、「それやったら1年は返事しねーわ」のセリフを思い出して、千草は恐怖にふるふると首を振った。


 1年間も口をきいてもらえなかったらきっと発狂する。


 ちなみに他のメンバーは強制指名・事前確認なしである。


 雪路もそれで任命されたわけだが、反りはあわなくても仕事はできる。


 それで選んでるので当然だ。


 が、それと仲良くやっていけるかは別物なのである。


 ある意味、ぽんぽんと辛辣な言葉のやりとりができるのは、仲がよいとも言えるのかもしれない。


「そーいえば、たつみん今美化委員のお仕事中だよねえ。不安ー? あの天使ちゃんとふたりっきりだってさー」


「別に?」


「おおー、お姫様余裕ー。何からくる余裕かなー? 天使ちゃんあんなにかわいーのに」


「容貌で惑わされるようなら、雅紀はとっくにわたくしのものですわ」


「おおー、お姫様すっごい自信。さすがー。普通自分じゃ言わないよねー」


「それに、仕事の合間にしてることがなぞなぞですって。ずいぶん可愛らしいものですわね」


「…………お姫様ー、それ盗聴ー? 盗撮ー?」


「まあ、なんて人聞きの悪い。校内の安全の為に監視カメラの設置は当然のことでしょう? もちろん、更衣室やお手洗いなどにはございませんけれど」


「……ねー、お姫様ー。いい加減にしないとたつみんに嫌われるよー?」


「あなたにそれは言われたくありませんわね。……でも、雅紀は人を嫌う、なんてことはありませんわ。たとえ、どんなに面倒くさがっても、重たく感じても、苦手に思っても、嫌うなんてことは決してしないのですわ、雅紀は」


「……うん、そうだねー。それがたつみんだよねー」


「だから、雅紀は素晴らしいのですわ」


「うん、たつみんはすごいよねー」


 珍しく意見が一致した二人は、お互いにお互いのきれいな容貌に笑みを浮かべると、にっこりとほほ笑んだ。


「うふふふふ」


「あはははは」


 通常スタイルで辛辣なやりとりを交わし、まわりを無駄に恐れさせているふたりは結局のところ、辰巳雅紀という人間を前にして。






 同じ穴のむじななのである。

どちらが犬でどちらが猿でしょうか。

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