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誓う男

松江君の回、これで終わりです。

「んで、結局君は誰なのかなー?」


 微妙にかたまった空気をのほほんとぶち壊してくれたのは、そんな幸広のセリフだった。


 普段ははた迷惑な奴だけど、今だけはちょっと助かるかも。


「う……、お、俺は松江だよ。辰巳、おまえと同じ小学校だった」


 ああ、やっぱり。


 だけど、松江とはあまり小学校の時も接点はなかったと思うが……。


「不思議そうだな。やっぱりおまえにとって、俺なんかたいした存在じゃなかったんだよな……」


 松江はそう言うと、自嘲するように笑った。


「たつみーん。約束ってなにー?」


「覚えてねえ」


 幸広に問われ、俺は正直にそう答えた。


「卒業式の時だよ……」


 松江は微妙に俯きかげんで話だした。


「中学は区域の関係で別なっちまう。だから俺は、おまえに聞いたんだ。せめて高校では同じところに通いたいって思って。どこの高校へ行く? って」


「そしたらたつみんなんて答えたのー?」


「松高かなって言った」


 そりゃそう聞かれたらまずそう答えるだろう。だって俺は、ずっと高校の選択肢は家から一番近いところ、だったんだから。


「んでー?」


「じゃあ、俺もそうするって言った」


「んでー?」


「それだけだ」


「…………」


 それは、約束って言うのか……?


「たつみん、松江君とは親しかったのー?」


「いや……」


 覚えがない。


「だよねー。もし親しかったのなら中学別れたって接点くらいはあるよねえ」


「それは……!」


 ばっと松江が顔を上げた。


「それはー?」


「……俺だって、もっと早く辰巳と仲良くなりたかったさ。でも……」


「でもー?」


「あいつらが……」


「あいつらー?」


 あ、嫌な予感がするわ。


「あいつら、あの御加賀見千草と辰巳の弟だよ! あいつらが、辰巳の友達になりたいなら、もっと自分を振りかえれって……! いろいろ邪魔されて、まったく近づけなかったんだよ……」


 予感的中。


 つかあいつら昔からなにやってんだ……?


「わーお。お姫様と噂の弟君だねー。んで、それはどーゆーことー?」


「……確かに、俺小学校のころは乱暴者でちょっと物壊したり暴れたりで……。だから、あいつらがそう言うのもわかるんだよ。だから、辰巳と離れる中学の間に自分を磨いて、暴れるクセも直して、高校ではいい友達になれたらって……」


 暴れるってのはクセとかそういう問題なのか……?


「ふーん、まあそれはいいやー」


 いいのかい。


「で、君がたつみんに拘る理由はなんなのかなー?」


 しかし、こいつ意外と話聞き出すのうまいな。俺と松江のふたりじゃ、会話になってたかもあやしいしな。


「辰巳に……」


 松江は俺をちらっと見ると、少し頬を赤らめた。


 ぞぞぞっと背筋が震える。


 やめろきもいわ。


「俺、小学校の時そんなんだったから、友達もいなくってさ。先生達にも問題児のレッテル貼られて、毎日学校行くのがすっげー嫌だったんだよ。まあ、確かに暴れてたことは確かなんだけどさ。で、小6の時、廊下をたまたま歩いてたら、ふざけてた別の奴らの持ってた掃除の箒が当たって窓ガラスが割れたんだよ。そしたらすぐ先生が飛んできて、俺に怒鳴った」


『また、おまえか!』、と。


「俺が違うって言っても信じてくれなくて。実際に割った奴は先生の剣幕に押されて自分がやったって言わなくて。俺も自分がやったことならともかく、まったく関係ないことまで決めてかかられて悔しくて。後、そのガラスが割れた時に破片あびて怪我もしてたのに、全然そんなことおかまいなしの先生の態度にも腹が立って。そんな時……」


『窓ガラス割ったのそいつじゃないですよ。それよりそいつ怪我してますけど。医者に連れて行かなくていいんですか? 怪我の場所目の下だし、破片が目に入ってたら事ですよ。責任問題になりますよね、学校の』


「その言葉に顔を青くした先生は慌てて俺を医者に連れてってさ。実際小さな破片が入り込んでたらしくて下手すりゃ失明の恐れもあって。結果、大事にはならなかったけど。目の下に傷は残っちまったけど。だけどそんなことより、俺は先生にそう言ってくれたそいつの、……辰巳の言葉が嬉しかった。俺じゃないって言ってくれた、辰巳の」


「……つか、それあたりまえのことじゃね?」


 感謝されるようなことはなにひとつないと思うが。


「いいや!」


 だが、松江は強く否定した。


「他にも見てた奴はいるのに、誰も言ってくれなかった。俺にかかわろうとはしなかった。先生に逆らおうとうはしなかった。だから、辰巳の行動には、とても価値がある。……感謝してる」


 そこまで言うと、松江はすっと立ち上がった。


「今日は悪かったな、辰巳。やっとおまえに会えると思って、ちょっと暴走しちまった」


「まあ別に……」


 かなり驚きはしたが。


「辰巳に親友がいるってわかって、本当だったら、そこにいるのはきっと俺のはずだったのにって思ったらつい泣けてきて……。まじ恥ずい」


 いや、誰が親友なんだ、誰が。


「俺、やっぱりまだまだだと思った。俺じゃまだおまえの横に立つのにはふさわしくない。普通になっただけじゃ駄目だな。だっておまえのまわりはすげえ奴ばっかりなんだろ? 俺も、そうならないと」


 はい? つかなんになるつもりなの?  


 ふさわしくないって、いったい俺は何様なわけ。


 そんな御大層な者になった覚えはさらさらないが。


「今日のところはは出直すよ。なあ辰巳、俺、誓うよ。もっと自分を磨いて、いずれ、きっと……」


 そう言うと、松江はやけにさっぱりとした笑顔を見せて帰っていった。


「ばいばーい」


 と、幸広は手を振って見送った。


 俺は、展開の速さについていけずしばし呆然となる。


 いずれきっと、なんなのおまえ。


 ちゃんと答え置いてけ。なんかこえーよ。


 松江が帰ると、幸広は俺に振り返った。


「もー、たつみんは本当にかっこいいねえ。ますます惚れちゃうねえ。ほんと、罪づくりだなー。どんどんライバル増えて、僕大変だなー」


 幸広は、んーと背伸びをすると、惚れ惚れするような笑みを浮かべて言った。


「でも、どんな奴がきてもたつみんの親友の座は誰にも渡さないからねー。ね、たつみん?」






 ……だから、いつ誰がおまえの親友になったんだ。

 

きっと松江君は、これからも精進していずれ立派なストー〇ーになることでしょう。でも、粘着質ではないから犯罪行為までは発展しないはず。

負けるな、たつみん!

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