傭兵の仕事
「ようやくたどり着いた」
僕は相棒のローガンと一緒に、仕事の依頼で晴れでも暗く思えるような深い森の中に入っている。依頼対象がこの森の中に居るという情報を街で得たからだ。
歩く事幾分か掛けてようやく、僕達は標的を発見した。
「ローガン、あいつで間違いないよね?」
「あぁ、しかしあいつらは何故こんな場所に居るんだ?」
僕達の狙っている標的、それは動物では無く人間だ。
依頼主から頼まれた依頼はとある人物の暗殺。現国王の暗殺だ。
ただの傭兵ならそんな危険な依頼は引き受けないだろうが、僕とローガンは常に二人で困難な依頼も遂行してきた。
今回も必ず遂行できるだろうという自信があって、僕と彼は引き受けたのだ。
目の前には国王以外にも、他の人影も見える。
標的以外は恐らく、護衛の兵士か何かだろう。
「僕達のやる事は標的を仕留める事だよ、それ以外の考えは不要だ」
「確かにその通りだな、サッサと始めるとしようか」
僕はローガンと組んだ時からのいつもの通りの作戦で指示を出す。僕は弓を扱っているので、遠くから狙撃。ローガンは前に出て大剣を使って暴れてもらうのだ。
「良し、行ってくれ」
「任せろ!」
ローガンは背中に背負ってる大剣を抜くと、身を屈みながらこっそり標的達に向かって近づく。
それから数秒後に、ローガンが奇襲したのだろう誰かの悲鳴と、複数人の怒号が森の中で響いた。
僕はすぐに弓に矢をつがえながら、標的を狙える場所まで動く。
そして、狙撃出来そうな場所までたどり着くと、僕は弓を構えて標的に狙いを絞った。
ローガンが他の兵士や標的の相手をしてくれているおかげで、僕はゆっくりと矢を引き絞りながら狙うことが出来る。
僕は深呼吸して精神を集中させると、矢を放つ。
狙い通りに矢は王冠を頭に乗せている標的の首筋に向かい、高速で飛翔する。
だが、標的はぐるんっと首を後ろに回して僕の方を見ると、普通は有り得ないと信じたいが素早く飛んできた矢を掴んで、それを握り潰した。
「嘘!?」
僕は素早く矢をつがえて標的に狙いを定める。しかし、今さっき居た場所には標的の姿が無く、戦っている護衛の集団とローガンの姿しか無かった。
「一体どこに?」
「ここじゃたわけが!」
「ぐふっ!?」
一体いつの間に!?
標的は僕の隣に居たらしく、彼は僕に怒声をあげるや、僕の鳩尾に光のような速さで肘打ちを決めた。
僕は衝撃によって肺に入っていた空気を全て吐き出し、吹き飛んで何度か転がる。内臓や骨にダメージが入り、痛みで息をすることが出来なかった。
「が、がは……」
なんて強さだ。正直国王と言うよりも、歴戦の将校と言った方がまだしっくりくるかもしれない……
まだローガンは護衛と戦っているのか……こうなったら僕がやるしかないけど、初撃をもらってしまったから全力を出せるか分からない。
「ほう、まだ立ち上がるとはな、そんなにも死に急ぎたいのかね?」
「そんなことあるわけないじゃないか……取り敢えず貴方が死ぬと仕事が終わるからサッサと死んでよ」
僕は全く動く気配の無い標的に向かって、腰に差していた剣を抜くと素早く接近して斬りかかる。弓が使えないでも、僕は剣術にいくらか自信があるから遅れを取ることは無いだろうと思った。
だけど……
「ぬるいわ!」
「ぐはっ!?」
僕の剣をあっさりと彼は避けるや、すぐさま回し蹴りを僕の顔に叩き込む。
標的の踵が僕の頬にめり込み、僕は再び吹き飛んで倒れた。
「つ、強すぎる……」
傭兵としてある程度実績を積んでいる僕をいとも簡単に二度も地面に伏せさせるなんて……!
「おい、こっちだ王様よ!」
「ぬっ!?」
目の前を見ると、助けに来てくれたローガンが標的と戦っていた。
ローガンは必死に剣を振るい戦うも、標的はヒョイヒョイッと軽く流すように避けている。
「ハハハ、こんな雑魚共を送ってくるとはあいつは何を考えておろうな!」
「ちぃっ! なんて動きをしてやがるこの糞ジジイ!」
標的は人間離れした動き方で、ローガンを挑発するかのように高笑いしながら隙あらば攻撃を仕掛ける。
ローガンはギリギリのところで避けるが、彼はそろそろ限界が見えていた。
僕はようやく動けるようになり、攻撃を受けた際に落としてしまった弓矢の下まで這って動く。
早くしなければローガンが負けてしまう!
僕は必死に痛みを堪えながら両手を動かして移動し、やっとの思いで弓を手に取ることが出来た。
「うらぁ!」
「いい加減飽きてきたのぅ、止めじゃ」
標的はローガンの一撃を右手で受け止めると、空いている左手で手刀の形を取った。
「良い運動になったぞ」
彼はそう言うとニヤリと笑って、ローガンに止めの一撃を入れようと胸に狙いを定めて突く。
「そうはさせるか!」
だが、僕はそれよりも早く標的が攻撃した瞬間に、矢を放った。
しかし、標的は化け物じみた反射神経で攻撃を中断するやすぐに振り向いて矢を受け止めた。
標的は振り向いて僕に向けて不敵に笑う。
「良いはんだ……」
そして、彼の見下したような笑みを浮かべた顔は、頭に乗った王冠と共に転がって地面に落ちた。
「最期の運動は楽しめたか爺さん?」
ようやく依頼対象を仕留めた僕は、彼の頭部を倒した証拠として要るため袋に入れる。
それから、僕は転がっている王冠を拾って驚愕した。
「ローガン……これを見てくれ」
僕はローガンを呼んで、彼にも王冠を見せる。
すると、ローガンもまた僕と同じような反応をした。
「この王冠の紋章……!」
何故なら、僕達が戦っていたのは人間の王様では無く、魔物の総大将である魔王だったからだ。
その後、僕達は依頼主に討ち取った魔王の首が入った袋を手渡す。
依頼主は満足して僕達に依頼した料金を渡すと、そのまま帰っていった。
そして、依頼が終わった次の日に、勇者が魔王を討ち取ったという報せが街中に届いた。
僕達の依頼料金は、依頼主……もとい、勇者の手柄の一割にも満たなかった。