肉屋
トニシ村の肉屋は、解体所を挟んで毛皮屋と繋がっている。
慣れた狩猟者は食用の獲物を狩るとその場ですぐに内臓を取り出す。これは他の獣への分け前でもあるが、臭みを肉に移さないためだ。余裕があれば頭を落とし、血抜きもする。ここまで処理をしてある肉は、肉屋でも高額で買い取られる。
だが、解体に慣れていない狩猟者や皮も売り物になる獣が相手の場合、そのまま持ち込まれる。
解体場で職人により頭部や皮など、必要な部分に別けられていく。血や臓物、血が回りきった肉は大体は施設の地下で飼われているムシや、外で飼われているトリの餌となる。脂は蝋燭にされるし、爪や角は装飾品となる。時には毛や胆が売れる生きものもいる。食べられると判断された物は肉屋へ、商品になると判断されたものは毛皮屋へと運ばれる。
ここまで処理してあるため、肉屋に並ぶのは大体臭みの少ない、美味しいものばかりとなる。
スイナが扉を開けて店に入ると、ガランガランと扉についた鈴が鳴った。
音を聞いて、肉屋の男が解体場からやってくる。
「肉屋のお兄さん、食堂の仕入れなんだけど、お勧めはある?」
スイナが聞くと、肉屋も慣れた様子ですぐに答える。
「食堂の嬢ちゃんか、ちょうどいい。朝方、猪のでかいやつが手にはいって吊るしてあるんだ。血も抜けた頃合いだから味見してみるか」そう言って焼いてくれた肉の欠片を、スイナは迷わず口に入れる。
「うん、美味しい。臭みがしっかり抜けてて、酒屋さんが喜びそうな味だね。どのくらいある?」
「俺と同じくらいの大きさのが一頭分だな。いつもの量になるように、あとは鳥と兎、蛇あたりをつけておくよ」
「じゃあそれを、宿までお願いします」
「おう。うちの弟子に運ばせる」
運ぶ分だけの報酬を払い、あとは荷が着いてから宿で払うよう紙に書く。
これでお遣いは完了だ。
ついでに、自分用のものを買う。朝と夜は食堂で食べるため、昼用のものだけだ。
「あとは鹿の干し肉と、鳥肉の油漬けを2食分ずつください。」
「黄札5枚な。ついでにコゴリもいるか?」
コゴリとは、皮を煮て冷めるとできる茶透明の塊だ。そのままでは臭みが強いが、温めると溶け、冷やすと固まるという性質がある。薄めて柔らかくしたものにいろいろなものを混ぜることで菓子を作ったり、薬をまとめるのに使ったりできる。
「欲しい!ありがとうお兄さん」
「おう。菓子を作ったら食わせてくれよ。」
「食堂に食べに来てくれたらね」
挨拶をしてスイナは店を出る。ついでに他にも買い物をしていこう、と考えながら。