トニシ村へ
「そろそろ食材を仕入れたいから、遣いを頼まれてくれるか」伯父の言葉に、スイナはトニシ村へ出掛けることになった。
トミナミ村を出るということは獣に出会う可能性がある、ということだ。即効性の痺れ薬や麻痺薬と、薬針を用意する。道はそれなりに整備されているため、用心する程度のものだが。
トミナミ村を出て、道をひたすら歩く。土の上に木片を撒いてある道だが石の棒が4本埋め込まれていて、馬車の荷車はそのうち左側の2本へ車輪をはめて走るようになっている。こうすることにより馬車を駆け足するほどの早さで走らせても揺れにくくなり、人を乗せられるようになったらしい。ちなみにあとの2本は向こうからやってくる馬車用だ。木片は土埃を防ぎ、ぬかるみにくくするのだと塔の学者が研究した成果だ。
歩きの者は大抵、すぐに避けられるように道の端を通る。ついでに草がのびていたら切り、土が露出していたら木片をかぶせてやる。
こうして道を使う者が少しづつ手入れしていくことにより、道が長く快適に使えるのだと初めて道を歩く者は皆、教わっている。
おかげで道は今日も快適に歩いていける。
他にも500歩ほど歩くと等間隔に目印の石が置いてあり、これを20数えるとトニシ村が見えてくるなど、いたるところに工夫がある。塔の実験のおかげで、ここは世界一快適な道だと商人の間で評判らしい。
スイナは日がまだ東側にあるうちにトニシ村へたどり着いた。それでも村は馬車と商人で賑わっていて、とても活気がある。
門の中央にあるのはひさしのついた掲示板だ。表側には直に町の地図が書かれており「食用肉 肉店で味に応じて買取り」「薬草 加工代行」「毛皮剥ぎ場 血抜き処理も行えます」などなど、店の宣伝板が貼ってある。
裏には狩猟者向けに買取り希望が紙で貼ってある。「巨鹿の頭 角の破損がないもの 毛皮店へ持ち込み」「巨鳥の後ろ羽 飾り用 ○○商会」といった商人からの依頼や、「巨蛇の血液 専用瓶5個分」「研究用鼠 小型の個体10匹」といった、塔からの依頼がある。
手に入れた者が板の管理者に品物を見せて紙を剥がし、品物と一緒に指定された場所へ持っていき、そこで記されている報酬を受けとるのだ。依頼は早いもの勝ちで、狙って捕ってきても間に合わなければ無駄になってしまう。運がよければかけあって少な目の報酬で買い取ってもらうこともできるが。馴染みになれば商人と直接契約し、争うことなく獲物を狙う者が多い。
ちなみに板の管理者は塔であり、塔からの依頼はここですぐに引き換えができる。依頼の半分ほどが塔からのものだからだろう。
スイナはこの板ではなく、店に直接買い付ける。
量と質を考えると、店で処理されたものが食べるには一番だ。