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『塔』の掃除人  作者:
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学舎

学舎は村の北側、一番塔に近い位置にあり、誰でも札を払えば利用できる。


基礎学舎は学問の基礎となる読み、書き、計算を中心に自由に学べる。塔の雇う学者が一人いて、わからない部分はなんでも聞くことができる。学者によってはたまに講義もしてくれて、皆で一斉に同じことを学ぶのはとても楽しい。


試験を受け、一定以上の学力が承認されると発展学舎に行けるようになる。こちらはより専門的に学べるが、学ぶ内容が師事する講師により決まるため、希望する学問の講師が次回の弟子を選ぶまで待たなくてはいけない。スイナも試験は通ったが、講師を選ぶのと学ぶための研究費を貯める必要があるのとで、まだ通うことはできていない。だが基礎学舎には山のような大量の本が置いてある。塔の学者になりたいと提出された論文のうち、認められたものは塔が買い取ってここへ保管するのだ。

破損や紛失を防ぐため、専用の管理人に知りたい内容や本の名前を話して受けとる。複写されているものは文字の練習に使ってもいいが、原本だと側に一切の筆記具を使用できない。

だから知識はその場で必死に詰め込み、一度本を返してから別の場所で書き写すことになる。

一ヶ所でも炭をつけるなどして破損させた場合はその本を全て書き直さねばならない。内容が読めないような破損は出入り禁止となる。

この規律のお陰で、こっそり筆記具を持ち込む者は村にはいない。


が、読んで得た知識を隣の部屋で書き写すことはできるため、本の複写が欲しい場合は何度も部屋を往復し、手を拭いながら書き写すという習慣になっている。


スイナもこれを目当てに学舎に通っている。

何冊も書き写すうちに字を覚え、読み落としていた新しい知識も手に入れることができた。

もうここで知識を広く身に付けるのもいいのでは、とも考えている。


入り口の警備さんに緑札一枚を払い、中に入れてもらう。

そのまま奥のお姉さんに目当ての本を告げ、貸し出しをしてもらった。

「はい。前に途中だって悔しがっていたから、とっておいてあるわよ。あれから貸し出しもなかったから、スイナちゃんの読んでたところに印の紙をはさんであるわ」

「ありがとう、お姉さん!」

「いいのよ。スイナちゃんは他の人がなかなか複写してくれない本もいっぱい書いてくれるもの。おかげで仕事がはかどってとっても助かってるの。このくらいはお礼にね」

「この本も近くにいる動物がいっぱい出てきて面白いんだけど、そんなに人気なかった?」

「研究しても新しいことがあんまりないからかしら。狩猟者の人たちなら興味を持つんでしょうけど、なかなか村の、しかも学舎には入りにくいみたいで。こんな本もあるんだってわかれば、学びに来る狩猟者もでるかしらね」

「この本の複写が終わったら、近くに出る巨獣の系統部分だけを別冊にして売れないかなって思ってるんですけど」

「この本を書いた人はもう亡くなってるから大丈夫。でも本をまとめた人の名前とスイナちゃんの部分複写だってことはきちんと書いておくのよ?」

「はぁい。『他人の成した記録に敬意を払え。』ですね」

「そう。塔の教えね」

よくできました、とスイナの頭をなでてから、お姉さんは仕事に戻っていく。お姉さんも時間があるときは複写をしたり、本を分野ごとにまとめたりと仕事は山積みなのだ。なのにいつも穏やかで、忙しさを見せない。いつもすごいな、と思いながら、スイナも複写を始めた。


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