少女スイナ
トミナミ村には、スイナという少女が住んでいる。
村の学者と、宿屋の娘との子供だ。産まれてから13度、冬を経験している。
母はスイナを産んで7度目の冬、高熱を出す病にかかり死んでしまった。
父である学者は宿屋の側に研究室をもち、薬草の研究をしていた。一年前の夏、自分で薬草を採りにいった先で熊のビーストに出会い、死んでしまった。持っていた毒薬と共に食べられたため、そのビーストによる被害が他になかったのがせめてもの救いか。
その革の切れはしを使って作った鞄は形見としていつも持ち歩いている。
その後は母の伯父が継いだ宿屋で雇ってもらい、生活している。
朝は宿屋の清掃をし、昼は子供向けに開かれている学者の講義を聞くか、トニシ村に遣いにいくかして過ごす。夜は宿屋に隣接する食堂で給仕をし、父の残した家に帰る。その家で父の研究記録を読みながら知識を学ぶのが、一番好きな時間だ。
夢は、塔の中に入ること。父が塔の学者に聞いたところでは、塔の中は想像もつかないような構造になっていて雲の上までも続いているそうだ。その中では多くの学者が知識を出しあって作られたからくりが一杯で、まるで別世界のようだという。
「一度でいいから、中を見てみたいものだ。」父が繰り返した言葉は、そのままスイナの夢となったのだ。