ある士官との出会い
第二話登場人物
<加藤真之>
役職 帝国海軍軍人・護衛戦艦「紀伊」航海士
階級 大尉
出身 広島県呉市
年齢 24歳
好きなもの・艦魂、軍艦、妙高、おしるこ
紀伊の航海士で真之の上官に当たる。
艦魂を見ることができる珍しい人物。やさしい性格で彼を慕う艦魂も多い。
紀伊に来るまで乗っていた妙高と仲がよい。
面倒見がいいため艦魂たちの相談に乗ったり仲裁に入ったりするなど若干苦労人。
父親は陸軍軍人であったため海軍に入ったことをよく思われておらず、実家からは半分勘当状態である。
将人が紀伊と出会ってから既に1週間が過ぎようとしていた・・・
将人は紀伊の防空指揮所から晴天の空を眺めていた
「少尉」
将人はふと自分を呼ぶ声に気がつき、振り返る
「何してらっしゃるんですか?」
そこにいたのは、この艦の艦魂である紀伊だった
「いや、潮風が気持ちいいなと思って」
「そうですね、私潮風ってどこか懐かしい感じがして好きです」
ここ防空指揮所は鉄板のような甲板から離れているため涼しい潮風が心地よい、将人と紀伊のお気に入りの場所だった
「そうだね。そういえばもうすぐだったよね?航空隊が着任するの。」
「はい、私すっごく楽しみなんです。」
紀伊はまるでおもちゃを買ってもらった子供のように嬉しそうな笑顔を浮かべる
「航海士の間でも新型戦闘機のうわさでもちきりだったよ」
2人が何気ない話に花を咲かせていると、防空指揮所にあがってくる足音が聞こえてきた
「?この時間に誰だろう?」
着任して早々の真之はまだ正式な仕事がない。
今は雑用や艦内の掃除などが主な仕事だ。
休憩するにしても防空指揮所に上がってくる人間などそうはいないはずなのだが・・・
「ん?しまったここ防空指揮所か。上る階段間違えたな。」
戸の内側に立っている士官のような男はそういって辺りを見回している。
見た感じ道に迷っているようにみえる
「あの。よければご案内しましょうか?」
将人はもう艦内の場所は一通り覚えたのでその士官に声をかけた。
「ああ、頼めるか?すまないな、今日着任したばかりでな。艦橋に行きたいんだが」
士官は申し訳なさそうに頭を下げる
「わかりました。僕は航海士の坂井将人少尉です。」
「おっ航海士か。俺は加藤真之大尉だ。よろしく」
見たところまだ20代の士官と挨拶を交わした。
「あの、少尉。私はこれで」
「ああ、じゃあまたね」
案内しようとしていた将人は、紀伊にいったん別れを告げた
すると・・・
「ん?君には艦魂が見えるのか?」
「えっ大尉もお見えになるんですか?」
「ああ。と言うことは君が紀伊か。よろしくな」
加藤は戸の隅に隠れていた紀伊に握手を求める
「あ・・・はい!よろしくお願いしますッ」
紀伊は緊張でびくっとしながらその手を握る
将人はかなり驚いていた
この紀伊に自分以外に艦魂が見える人間はいなかったし、今までもそういう人間を見たことがなかったからだ
「えっと大尉?今までは何に乗って居られたんですか?」
「俺は妙高に乗っていたよ。」
「そうだったんですか。でもどうして紀伊に?」
「新しい艦隊の旗艦が航海士が不足しているっていうんで異動になったのさ。こんな船世界にもそうないし興味あったしね。」
加藤は艦魂である紀伊と指揮所をぐるっと見渡しながら話す
「そうだったんですね」
紀伊は進水したてでかつ人員もそろいきっていない。そのため他の艦艇からこうして航海士を集めているのだ。
「さて、挨拶も済んだし艦橋に案内してくれ」
「はッ了解しました!」
「そう硬くならなくていいよ、せっかく艦魂が見えるもの同士仲良くしよう」
「ありがとうございます。」
加藤は優しく微笑むと将人と握手を交わした。
「しかし紀伊はでかいな...妙高とはえらい違いだ」
艦橋に向かいながら加藤はひとりごちる
「大尉はずっと妙高ですか?」
「いや実はこないだまで少しだけ陸奥に乗っていたよ。」
そう語る加藤の表情は少し曇っていた。
今年の6月日本海軍の象徴ともいえる長門型戦艦の二番艦陸奥は原因不明の爆発によって沈没したのだ。
「陸奥には妙高から大型艦艇の研修で派遣されててな。乗ってた時間はほんの数か月だったが」
一般には箝口令の出ている案件であるが柱島泊地で起きた爆発のため呉にいた軍人にはよく知られている。
「そうでしたか...」
「潜水艦って噂もあるがまあ暗い話はなしだ。俺もだがとりあえず命を大事に頑張っていこう。じゃ艦橋まで頼むよ」
加藤はぽん、と将人の肩をたたく
「はい。了解しました」
将人は艦橋へ加藤を案内するとまた防空指揮所へ戻った。
「少尉。」
外を眺めていた将人は声に振り向くと紀伊がすこし悲しそうな表情で立っていた
「紀伊...大丈夫かい?」
「加藤大尉のおっしゃっていた陸奥さんの話建造中よく噂になっていました。私も会うのを楽しみにしてたんです。」
少し泣きそうな顔をしながらぼそりとつぶやく
「そうだね。僕も陸奥は好きな船だったからすごく悲しいよ。でも大丈夫紀伊は僕が守って見せるさ」
にこ、と微笑みとつられて紀伊にも笑顔が戻る
「でも少尉。航海士の少尉でどうやって私を守ってくれるんです?」
「え?そうだな・・・いやいつか紀伊の航海長になって攻撃をよけまくって見せるさ。あはは・・・」
自信のなさそうな将人の笑いにからかった紀伊もくすくす笑い始める。
「ふふ、じゃあ楽しみにしてますね航海長」
「ああ、何年かかるかな...道のりは遠そうだ・・・」
笑い声はその後しばらく続き、今はまだ平和な時間を満喫する二人であった