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一族の幻影  作者: じゃれにぁ


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ジュネーブの魔女 ―世界を買い叩く

1945年秋。敗戦の痛手に沈む日本を遠く離れ、志乃はスイス・ジュネーブの小さな一軒家にいた。

持ち込んだ金塊は、そのままではただの金属に過ぎない。志乃は潜伏してすぐに、現地の名門プライベートバンクの頭取たちを自宅へ招いた。


「栗栖の女主人よ。敗戦国の女が、我々に何の用だ?」

並み居る銀行家たちは冷笑を浮かべていた。


だが、志乃は一族に伝わる漆黒のハイヒールを鳴らし、机の上に一通の「計算書」を叩きつけた。

「これは、今後10年でアメリカが世界経済をどう塗り替えるか、そしてスイスが生き残るためにどの『道』を通すべきかを記した数字です」


銀行家たちは目を剥いた。

「これは....!?」

そこには、栗栖家が熊野で千年以上磨き上げてきた、ペルシャ由来の天文学と数学を応用した『未来予測アルゴリズム』が、血の通った文字で刻まれていた。


「あなた方の金を、私の知恵に預けなさい。私は日本を救う前に、まず世界を買い叩く」

そこからの志乃の快進撃は、欧州金融界の伝説となった。


志乃は、戦後の復興需要を完璧に読み当てた。

瓦礫の山となった欧州で、誰もが明日を疑う中、彼女は「失敗は最大の発明」という家訓の通り、倒産寸前の技術会社や、泥に沈んだ鉄道網の株を二束三文で買い集めた。


周囲が「非国民の女の狂気の沙汰」と嘲笑う中、志乃は動じなかった。

「人が『終わった』と嘆く場所こそが、最も新しい芽が出る場所なのよ」


1950年代。志乃は買い集めた株と膨れ上がった資産を元手に、複数のシェルカンパニーを設立。これが後の『グルグル』や『シルバーマンサックス』の根幹となる分散投資の始まりだった。


彼女は自分の名前を一切表に出さなかった。

「名前は弱点になる。私たちは数字と結果だけで世界を支配するの」


やがて、彼女を「ジュネーブの魔女」と恐れるようになった頭取たちは、志乃がハイヒールを鳴らして銀行の廊下を歩く音を聞くだけで、背筋を伸ばし、最敬礼で迎えるようになった。


志乃の成り上がりは、私利私欲のためではなかった。

彼女が稼ぎ出した天文学的な利益は、密かに日本へ送られ、日本の基幹産業の基盤を影から支える「見えない盾」となった。


ある夜、美月が志乃に尋ねた。

「お母様、なぜこんなに稼いでも、私たちは質素なままなのですか?」


志乃は、100カラットのダイヤモンドよりも価値のある「情報」を燃やしながら、不敵に笑った。

「美月。本当の贅沢とはね、世界が自分の指先一つで動いていることを知りながら、自分は一軒の静かな家で、美味しいお茶を飲んで笑っていることなのよ」


1960年代後半。志乃の個人資産は、すでに日本円にして数兆円を軽く超えていた。

しかし彼女は満足しなかった。彼女が見据えていたのは、自分の一代記ではなく、100年後の未来だった。


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