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53 希望の先に

クライマックスですよー!!




ライナは、ナツを抱きしめていた。



ナツのためではなく、

自分のために。





ライナの心は、暖かな光に満たされていた。





大好きな人が

こんなにも愛されている、

ということが、

自分の幸せにつながるなんて、知らなかった。


ゆっくりと身体を離すと、

自然と目が合った。

ライナとナツは、笑った。




――ねえ、ルイ。

早く目を覚ましてよ。

あなたを想う愛は、こんなにも温かいんだよ。




ライナが視線を向けた先には、

先程と同じ姿で、

目を閉じたままのルイがいた。





============





――光がどんどん強くなる。





ルイは、自分が目を閉じていることに、気づいた。


先程までの暗闇の中では、

目を閉じているかどうかさえも、分からなかった。



ゆっくりと、重いまぶたをあげる。

瞳が光を捕まえる。

星屑のような煌めきに身体を包まれる。




――温かい。




「あ。」





言葉をなくした。

世界が、美しすぎて。


ルイは眩い光の中に浮かんでいた。

遠くにその中心ともいえる、太陽のような球体が見える。






このまま。



元の世界(・・・・)に戻れる?」






そう呟いて、ふと、思った。


『元の世界ってどこだ――?』






どれほどの時間を過ごしたのか分からない、

あの暗闇は、

ルイの世界から跡形もなく消え失せていた。



あの暗闇の前に、自分がいたのは、

どんな世界だったであろう?



気が付くと、

目の前に大きな光の球体が迫っていた。

熱くはない。

痛くもない。




ただ、眩しくて、

温かくて、泣きたくなる、

そんな光が世界を満たしていた。




――声がした気がした。




名を呼ばれた気がした。

その音の意味が、あたたかくて、痛かった。









ルイは、戻ってきた。






============






ライナとナツは、

最初に向き合った位置に座っていた。





二人の間には、

出会った時の緊張感はまるでなく、

旧知の仲のような温かい空気が満たしていた。




「ふふふっ。なんだかおかしいわね。」

ナツが笑う。


「どうしたのですか?」

ライナがきょとんとした顔で尋ねる。





「だって、私はここへきた時は、

あなたは敵、と思っていたもの。


でも、今は、ルイ様のことを、

同じように想ってくれる同志、

のような気がしているの。


これだけ話を聞いてもらえたら、

もう未練なんてないわ。」





「それは、うれしいですね。」





ライナは、ナツに返す。

その言葉は、本心だった。


ルイは、周りから誤解されやすいし、

実際自分も誤解していた。




優しさがわかりにくいし、

口は悪い。

態度もふてぶてしいし、人遣いは荒い。


でも、思ったよりも子どもみたいだったり、

その言葉に嘘はない。


そんなルイが、

誰かに愛されているという事実が、

ライナの心も明るくしてくれる。






戦うためじゃない。

愛禍(アモロス)と共に生きるために、

想鎮士(わたしたち)は、ここにいる。




すべての《愛》を天へ送るために。






ライナは、この瞬間に

そのことを体の隅々まで実感した。





ライナの視界は澄み切っていた。

此処(・・)が自分の居場所だと思えた。







その時、



「え!」



その時、ナツが驚いた声を上げた。





先程まで、全く反応しなかった。

もう目覚めないのだろう、と思っていた。







ナツの、愛禍(アモロス)の主が、







――ルイが、目覚めた。








「ル……!」

「ルイ様!!」




ナツがルイの枕元に駆け寄る。


出遅れてしまったライナは、

立ち上がろうと立てた膝を、

静かにもとに戻す。




駆け寄ればよかった。




ちょっと、我に返ってしまい、

恥ずかしさが先に立ってしまった。




目覚めたルイは、

ナツと目が合うと、不思議そうな顔をし、

ゆっくりと、辺りを見渡す。

何かを探しているかのようだ。




ライナは、その様子を遠目から見ていた。







――何を探しているんだろう?







そんなことを考えながら、

ぼーっと見ていたライナとルイの目が合った。



「?」



その瞬間、ルイの顔がほころんだ。


求めていたものをやっと見つけた、

そんなホッとした笑顔で。





「へ?」




ライナは

向けられたやさしい笑みにうろたえるしかない。

普段の毒気がゼロの状態の、イケメンの笑顔は、

心臓に悪すぎる!!




全身の温度が上がる。

ライナは思わず顔を背けた。




目の端のほうで、

なんだか不服そうなルイの顔が見えたが

気の所為だと思うことにする。




「ルイ様、大丈夫ですか?

まだ寝ていらっしゃったほうが。」


ナツが慌てている。




顔のほてりがとれず、うつむきつつ、

ルイの方に顔を向けると、

ルイがゆっくりと、起き上がっていた。




「ルイ様!!」

ナツがルイに抱きついている。


「私は、片時もおそばを離れませんので!」

「え?は?」


戸惑うルイに構わず、

ナツは、抱きついたまま叫んでいる。



ルイは、うろたえながらも辺りを見回し、

呟いた。




「ここは?」




「ここは、ルイ様のお部屋のようですが、

そうではありません。


あの方の茶室(ティールーム)でございます!


私共は、ルイ様が目覚めるのを

ずっと待っていたんです!!」




ナツのテンションが高すぎる。

そして、しっかりとライナを指さしている。



リハビリのためにもっと時間が欲しかった。

しばらく会わないうちに、

ルイの傾国の笑顔に、

耐性がなくなっていたようだ。


顔のほてりが全然取れない。

ゆでダコのような顔に違いない。

こんな顔を見られたくないのに。





ライナは、恋する乙女なのだ。





好きな人に久しぶりに会うのだから、

もっとかっこいい自分でいたかった!!





俯いたまま、目をぎゅっと瞑る。

何を言われるだろう。

何を言われても、普通で居られない予感しかない。




心の中で叫びまくっているライナに、

ルイが声をかけた。






「お前が?これを?」




「そ、そうです!」



なんとか返事だけ返す。

目をぎゅっとつむり、両手を握りしめる。

手のひらが汗ばんでいるのが分かる。






そのまま、しばらく時が流れた。





――あれ?何も言わない?





そーっと顔を上げる。

ルイの顔を見る。

ルイは、口をぽかんと開けていた。


「え?」

「あ!す、すまん。」

「ど、うしたんですか?」


「い、いや。び、びっくりしすぎて……。」

「何に、ですか?」


「いや、だから!すごすぎるだろ!!」

「何が、でしょうか?」




「この茶室(ティールーム)だよ!!」




「ルイ様のほうがすごいですよね?

あんなドデカイの、わたしなんかに作れませんよ。」



「い、いや!そう言う事ではなく!!」

「どういうことですか?」




もう、この際はっきり言ってほしい。

俺のほうがすごいと言いたいのだろうか?

サイズの問題ではなさそうだが?

何を褒められたいんだ?


ライナは、小首を傾げている。

ルイは、パクパクと口を開けて、

言葉を探している。


そんな事を考えていたら、

ライナの頬は、通常運行になっていた。


ルイを見ても、

こんな変なやつだったな、

としか思えなくなった。

この調子だ、自分に言い聞かせる。


なんてったって

目の前の愛禍(アモロス)を昇天させるという、

重大な使命がライナにはある。


ルイのよくわからない問答に

付き合っている時間はないのだ。





「あの、はっきり言ってもらえませんか?」




貴方を褒めてほしいなら、どれだけでも褒めてやるよ。

そんな思いでライナは、ルイに投げかけた。




ルイは、なぜか顔を真っ赤にして、叫んだ。




「この、茶室(ティールーム)を作った、

お前がすごい!!

って言ってるんだよ!!」



「は?」



ライナは、ポカンとする。



「いや、だって、ルイ様より全然――。」


「そりゃお前!当たり前だろ!?

どんだけ年季が違うんだよ!」


「はあ?」


ライナは、自分がすごいなんて、まったくピンとこない。



「お前は、いつから練習してたんだ?」


「二、三ヶ月くらい前でしょうか?」


「はぁ。バケモノだな。」

ルイが前髪をクシャリとさせながら、

大きく息を吐く。



「はぁ!?

バケモノって聞き捨てならないんですけど!!」



なんか褒められていないような気がして、

思わず口が出る。



「そんな短期間で茶室(ティールーム)を創り上げた、

想鎮士(ソメンター)なんて今までにいない、

って言ってるんだよ!」



――え?



「そ、そうなんですか?」


「そうだから、こんなに驚いている!

なぜ伝わらない!?

よく話を聞け!」




怒られているのに、

ああ、いつものルイだなあ、なんて、

思ってしまったライナは、もう末期だ。

どこまでいっても、ルイが好きなのだ。


俯いて、ルイからニヤけた顔を隠す。



「聞いてるのか!?」

「は、はい!!」


大きなため息が聞こえる。


「いくら、他に適任者がいないからって、

ミツキのやつ、ライナに丸投げとは――。」


なんだかブツブツ言っている。






「ということは、

お前が私の愛禍(アモロス)か?」




「そうでございます!」

ナツが目を輝かせて、ルイに迫る。

ルイが思わず後ずさる。




コホン。

ルイが小さく咳をする。



「お前の名は?」


「ナツ、と申します。」

そう答えたナツの目は、潤んでらんらんとしている。



怯んだルイは、一定の距離を置きながら続ける。




「お前は、ライナに話を聞いてもらったのか…?」


「はい、たくさんお話いたしました!

とても楽しゅう御座いました!」


満面の笑みでナツが答える。




それを見て、ルイは静かに言った。



「では、もう思い残すことはないな?」


「……。」



先ほどまでとは打って変わって

ナツは黙り込んだ。



ルイは、何も言わずに、ただ、待っていた。



しばらくの後、




「ルイ様がお目覚めになられたので、

私はまだ、ルイ様の横から離れたくありません。」




え?




「さっき、もう未練はないって!!」




ライナが思わず口を挟む。



「ライナ。」

ルイがライナを目で制す。




「っ!」

ライナは口を噤む。




だって、だって、だって!!

さっきまで上手くいっていたのに!!


ここで、ナツを昇天させなければ、

ルイは――死んでしまう!!


ライナは自分の不甲斐なさに、

涙があふれてきた。




「うぅ。」




見られたくない。

こんな姿、ナツにも、ルイにも。




俯いて、必死に涙をこらえる。




ルイは、ゆっくりとナツに向き直った。








「あなたには、本当に感謝している。」








ナツも、ライナも、

その言葉に驚いて目を見開いた。



「ナツ、は、私の相棒だ。


これまでの戦いでも、

本当に、私のことを支えてくれた。


また、あなたがいてくれることで

心の支えにもなっていた。」




「ルイ様!」




ナツの目には涙が浮かんでいる。




「あなたは、精一杯私に愛を注いでくれた。

注ぎすぎて、今、こういう状況になっているが。」



「そうですわね。」



「一つ言えるのは、

ここで昇天したとしても、


あなたがずっと、私のそばにいることは、

変わらない、


ということだ。」





「え?」





ナツとライナの声が重なる。

それを見て、ルイが少し微笑む。




「あなた自身が消えるわけではないのだ。


《行き過ぎた愛》は一度昇天するが、

また、あなたは私の紡具(スピンドラ)で育まれる。


もちろん再び、愛禍(アモロス)になることは、

避けねばならぬがな。


ナツ、あなたは、


これからもずっと、

一緒にいれるのだよ。」




そう言うと、ルイは、

優しくナツに微笑んだ。




「ずっと、

おそばにいれるのですか?」



ナツは震える声で、尋ねる。




「そうだ。」

ルイは、力強くこたえた。




風がさあっと吹き抜け、

光が三人の顔を明るく照らした。






「わぁーん!!」


ナツは、周りの目を気にせずに、

号泣していた。






ルイが優しく背を撫でる。





「私のことを想ってくれて

――ありがとう。」

ルイとナツが見つめ合う。





「さあ、また、元の世界で一緒に暮らそう。

そのために、あなたを空へと導かせておくれ。」




ルイは優しく語りかける。





「はい……。はい!

わかりました!」



ライナも涙をこらえつつ、

しんみりした雰囲気に浸っていると、

ルイがくるっと向き直り、




『昇天呪文!』




と小さな声で伝えてきた。



あ、そうか!

ここはわたしの茶室(ティールーム)だ!

あれ?なんていえばいいんだっけ!?




焦っていると、




「息を吸え。」




と、えらーいお方のアドバイスが飛んできた。





「は、はいっ!」





一息ゆっくりと吐いて大きく吸う。



体の中が、新しい空気に満たされる。

世界は、星屑のように輝いている。




言葉が自然にあふれた。




「お前の身は、

想鎮士(ソメンター)であるこの私が保証しよう。


想いが募りすぎるほどの

(あるじ)に恵まれたことを、誇れ。


その愛は、確かに届いた――


今ここに、愛禍(あいか)の名を冠す魂よ、

縛鎖(ばくさ)を断ち、

哀しみの(おり)を抜けよ。



我が言霊(ことだま)銀印(ぎんいん)をもって命ず。


昇れ――《アモロス》。






光の果てへ、還れ。」





一瞬の静寂。





次の瞬間、光が弾ける音に世界が包まれる。

光の洪水に全員が包まれる。




その中で、確かに、昇天するナツを見た。






ライナは、真の想鎮士(ソメンター)となった。


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