36 宣戦布告
ちょっと短めですが、お楽しみくださいませ。
――ルイって、私のことが好きなの?
そんなに真っ直ぐな
ルイの心の奥の方まで見透かしたような瞳で
見つめないでほしい。
なぜ、みんな、俺より俺のことがわかるのだ。
俺にもう自分の気持ちを隠せる手段はないのか?
「……え?」
ライナが驚いている。
「は?」
思わずぶっきらぼうな声が漏れる。
「……真っ赤」
バッと頬に手を当てると――熱い。
体中の血が沸騰しそうだ。
「――そんなことわからん!!!」
そう言って、
ものすごい勢いで立ち上がったルイは
そのまま外に出た。
ライナを置いて。
ひたすら歩いて歩いて歩いて。
たどり着いたのは近くの公園だった。
ベンチを見つけてドサッと座り込む。
息が上がっている。
身体が熱い。
鼓動が早い。
この熱は、ここまで歩いてきたからだろうか?
それとも――?
「あーーー!!もう!!!」
誰に言うでもなくルイは叫んだ。
ゆるりと散歩していた老夫婦が
びっくりした顔でこちらを見た。
それには気づかないふりをして、
いや、どうにも取り繕えず、視線をそらす。
頭を抱えて目を閉じる。
自分の心臓の音が収まるまで。
どれくらいそうしていただろう。
スッと顔を上げると、
朝の光が目の前の池に反射し、キラキラと輝いている。
ルイはそのまま、池を眺めていた。
朝からたくさんの人が、池の周りをランニングしたり、
ウォーキングしている。
少しぼんやりしていたら、
身体も冷めてきた。
というか――寒い。
起き抜けの浴衣一枚ででてきたのだ。
十一月になろうかという時期の朝は冷える。
帰ろうか、と腰を上げかけたが、
ライナの顔が頭をよぎる。
もう一度、どかっと座りなおす。
――好き、なんだろうなあ……。
そうなのだ。
これだけ周りを固められているのだ。
きっとルイはライナのことが好きなんだろう。
それが恋愛がどうかは置いておいて。
確かに、
ライナはかわいいし、誰よりも話しやすいし、
話したいし、気になるし、――心配である。
この気持ちを『好き=恋愛』というのかが
自分に判別できない。
これだけ年が離れているのだ。
ただ、
年長者として
可愛がっているだけなんじゃないか、とか、
親のような気持ちなんじゃないか、とか、
そう思ってしまうとよくわからなくなる。
「――同い年だったらわかるのか?」
浮かんだ疑問を空に呟く。
そもそも昔から、恋愛事は苦手だ。
自分の外見に無頓着が故に、
昔からなぜか女に言い寄られることが多かった。
たまにかわいいなと思う子もいて、
付き合ったりしてみたこともある。
ただ結局、
『思ったのと違う』とか
『お金持ちなんでしょ?なんか買って』とか
顔がいいからこうだとか、
家が金持ちだからとか、
ろくな理由がなかった。
「『俺』自身を見てくれる人なんて
いないと思ってたのに。」
挙句の果てには、悪い男に成り下がった。
誘われたら、乗って、
やることやっておしまい。
そんなことに飽きたら、
誘いにも乗らなくなった。
そんなこんなで自宅に引きこもって幾星霜。
「……あんなに真正面から来られたら、
どうしたらいいんだよ。」
つぶやきながら空を仰ぐ。
眩しすぎて両手で目を覆う。
ライナのほうが大人じゃないか。
わからなかったら、臆することなく相手に聞く。
「……ばっかみてえ。」
晴れ渡る秋の空を見上げながら思った。
まだ、ライナは家にいるだろうか。
戻りたいが戻れない。
ルイはまだ、あの質問に答えられる気がしなかった。
その時――。
ミャオウ……。
猫の声。
気がつくと目の前に、美人な黒猫がいた。
――あれ、こいつ何処かで……。
そう思った次の瞬間、
突然、呼びかけられた。
『桐ケ崎 ルイ、さんだよね?』
――誰だ?
ルイの殺気がスッと尖る。
あたりを見回すが、
ルイの他には、目の前の黒猫しかいない。
――この猫がしゃべっている?
「――お前は誰だ?」
殺気を纏ったまま、ルイは黒猫に声をかけた。
『ああ、そうだよね、
今はラウラの姿しか見えてないもんね。』
無邪気な声、幼い話し方――子どもか?
『えーと、今日は、宣戦布告?っていうの?
しにきたんだ。
僕、頑張って、いっぱい仕掛けを準備したからさ、
ルイさんも頑張ってくれると嬉しいな。
まあ、最後には――僕が勝つからね。
ふふふっ。』
――宣戦布告?仕掛け?
どちらにしても、穏やかな話ではないのは確かだ。
「何を仕掛けた?」
『そんなの教えるわけないじゃん!
あ、でもヒントくらいないと、
僕がやったってわかんないかー。
えーと、そうだなあ……
《お仕事》頑張ってね!ってとこかな。
ふふふっ。』
「仕事って――
想鎮士の仕事ってことか…?」
「まあ、そんなとこ。
あ、そろそろ人が来るから、この辺でね。
楽しみにしてるよー。」
「――待てっ!!」
そういった瞬間、
黒猫は目の前から消え失せていた。
「……子ども…藤凪…」
――想鎮士について知っている、
ということであれば、
《藤凪家》で間違いないだろう。
その中で、『子ども』となると……。
「当主の息子…か?」
確か、ライナの父――ライガは、
藤凪に戻ったあと皇族の娘と結婚していたはずだ。
その子どもが、
次期当主として育てられていたとしたら……?
――だが、疑問が一つ。
「……なぜ、俺を狙う…?」




