33 想鎮士の宇宙
いつも皆さんありがとうございます!
「――え?」
「すげーだろ!!」
得意顔のミツキ。
狐のような顔をして、子犬のように尻尾を振っている。
――いや、すごい。
すごいんだけど……、
素直に褒めたくない…。
「……これ、あの蔵の中のやつ全部?」
「もちろん!
新しいものは、こっちに直接追加してってるから
蔵の中にないやつもあるかなー」
――へぇー、って、
ちょっと待て。
「……お前が全部やったのか…?」
「んなわけあらへんがな。
外注ですよ、が、い、ちゅ、う!!」
「はあ!?
そんなことしていいのか!?
あれは、瀧佐賀直系しか見れない資料じゃ…!」
「ルイくん、賢いのに頭かったいなぁ。
いちいち、あの山のような資料から
目的のものを探すのに、
どんだけ労力がかかると思てんの?
世の中、業務効率化が叫ばれまくっとるやないか。」
「ま、まあ、確かに……。」
自分の仕事は、効率化の正反対にあるが……。
「まあ、世界中から問合せもらうし、
いちいち模写して送っとったんじゃ
らちあかんやろ?
そいで、親父を説得して、
近所のえーらい大学の研究室に協力してもろて、
データ化したんや。
こうしたら、劣化にも火事にもビビらんでいいでな。」
――確かに効率的だし、保管も楽である。
「そら、もちろんデータに関しては、
一切持ち出し禁止、複写禁止、って
覚書書かせとる。
破ったら瀧佐賀が何するかわからへんで……、
っていう脅しも付けてな。」
「……はぁ。」
用意周到というか、なんというか……。
「もちろん、謝礼はしたし、
えらい先生方からしたら、
門外不出の瀧佐賀の古文書が、
実際に見れるさわれるほうが貴重や!!言うて、
涙が止まらへんお方もおったけどな。」
――うんうん。
社会貢献にもなっているようだ。
うん、これでいい気がしてきた。
「しかもなー、これがすごいんが……。」
そう言って、ミツキがパソコンを触る。
先程までの紋様の画像一覧から、
画面が切り替わる。
――え?
「……これって」
「な、すごいやろ!」
ルイは瞬きするのも惜しいくらい
パソコンの画面を見つめていた。
そこには、
――紋様の《宇宙》、が存在していた。
三次元空間の中に、
それぞれの紋様が細い純白の線で
他の紋様と繋がっている。
一つ二つではなく、
何百、何千、何万の紋様が
一つ一つ星のように、
散らばったりまとまったり、
丸くなったり、尖ったりしながらつながっている。
ある場所は星雲のようであり、
ある場所は惑星のようである。
そこには確かに
この地球の外側に無限に広がる《宇宙》
が存在していた。
「――これで相関関係もわかんねん。
すげえだろ?」
「……ああ。」
ルイは、目の前に広がる《宇宙》の美しさに
言葉を失っていた。
ミツキは、満足そうに微笑むと続けた。
「それでな……。」
カチカチとパソコンを操作する。
密集している星たちから遠く離れた位置に、
先ほどの美しさと対照的な
バラバラと不規則に乱れた星たちが広がっていた。
星、と呼ぶには物足りない
くすんだ鈍い光を発している。
「見てみ。」
ミツキがパソコンの画面をルイに向ける。
「?」
ルイは言われるまま覗き込むと、
そこには見るだけで背筋がゾッとするような
不穏な気配をまとった《紋様》たちがいた。
「――これはなんだ…?」
見ているだけで吐き気がする…。
決して二日酔いのせいだけではない。
ルイは、画面を少し向こうに押しやり、目を逸らした。
ミツキが画面を元の星雲に戻しながら告げる。
「……こいつらは、
――『黒理式』
この世に存在してはならない陣だ。」
「――!!」
――ルイもかろうじて、聞いたことだけはある。
『黒理式』
その不吉な陣を編んだ想鎮士は、
もう、この世の人間ではいられない、
己の欲望に飲み込まれ、その欲の果てに、
我が身を滅ぼす――。
「――そんな陣まで保存されているのか?」
「……まあね。
善きものがあるなら悪しきものも存在するやろ。
まあ、これは機密中の機密事項やけどな。
流石にこの陣は、先生方には触らせられんから、
俺がデータ化したんや。
普通の人が触ってもうたら、
魅入られて、簡単に堕ちてしまう。
それこそ、人が愛禍になるように……。」
「……。」
「まあ、瀧佐賀家に収監されたあとには、
この世には出回っとらんよ。
ああいうのには、
僕らが重い結界を張ってまうからね。」
ミツキは、手慣れた様子でパソコンを片付け始める。
「今回の事件のような、
愛禍化を促進するようなものは、
あの中にはなかったという認識でいいんだな……?」
「……うん。そやね。
それも大概だけど、
今、中に保存されとる奴らはもっとえげつないからな。
どちらかと言うと、
少しゆるいがゆえに、
そんな陣存在するんか?ってのが
俺の考えや。
本格的に悪事を働くなら、
もっとえげつない陣はどれだけでもあるからな。」
「どれだけでも……」
「……ああ。人の欲が尽きない限り。」
いつの間にかパソコンを片付け終わった
ミツキが立ち上がる。
「うちに出せる情報はこのくらいしかあらへん。
あとは推測の域を出えへんな。」
「そうか――。」
やはりあの陣は、
《誰かに》
《新しく作られたもの》
ということだ。
片付けを進める横でルイが考え込んでいると
「さあ、おみやげでも買いに行こか?」
いつものにこにこ顔で、ミツキが呼びかけた。
「……?みやげ?
そんなもん、いらな……」
「かわいいかわいいライナちゃんに
京都みやげくらい買って帰らんとなー」
――っ!!!
「――なっ!!!」
「勝手になんも言わんと一人で飛び出して、
こんなとこまで来て、
めちゃ怒ってると思うでー」
そういいながら、あのいけ好かない笑みで
ニヤニヤしながら楽しそうにルイの周りを回っている。
――なんでお前がそんなこと知ってるんだよ!
なぜそんなにルイの行動が筒抜けなのだ?
俺にプライバシーはないのか?
それともそんなに分かりやすい男なのか?
ルイの思考は、
ひたすら疑問符であふれる。
そういう顔から、
全てがダダ漏れなのだということに
本人は全く気づいていない。
それを見たミツキは、
「ぷくくくくっ!!!」
『あー楽しすぎる!
なんなんあの遅れてきた青春ヤロー!!!』
心の中でも、表情でも、態度でも、
全身でルイの恋路を面白がっていた。




