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31 京都の夜

『糸で編まれた紋様』の正体を探らねば、

全てが推測のままだ。



さて、いかに。



そう思いつつも、気になるのはライナのこと。

あの跳ねっ返りは、あれ以来ちらりとも顔を見せない。

こちらもあえて、捕まえようとはしない。


なぜか?

答えは、単純明快である。




ルイが――ビビっている、からである。




本人が『何も言わなかった』と言っているのだから

忘れてやるのが大人だと思うが、

どうにもこうにも忘れられない。


むしろ、

『俺のことが好き』ってことなのか、

気になって仕方ない。


こんな調子なので、

会えば挙動不審極まりない

怪しさ200%の男に成り下がるのが目に見えている。


相手は十歳も下であるし、

そもそも、

恋愛対象としての好きなのか、

はたまた兄のような想いなのではないか、

ちょっと嫌だが父親としてなのではないか、

いろんな可能性があるわけである。


それなのに、ルイは気になってしょうがないのである。

そして、心の奥の隅っこの方で、

『恋愛対象としての好きだったらいい』なんて

1ミリくらい考えてしまっているのである。


ただ、まともな彼女ができたことのない

ヘタレアラサー男は、

面と向かって確認する勇気もないのだ。



そういうわけで、

距離を置いたほうがよさそうだなと考えた

ヘタレなイケメンアラサーは、

京都へと足を運ぶことにした。


決して、気まずいからではない。

仕事である。

そう、信じ込もうとしている。


ついでに、ライナには直接伝えなかった。




なぜか?




ルイが――ビビりだからである。




=============




そうして、新幹線でやってきた京都は、

観光シーズン真っ只中で、

人の多さも最高潮の時期だった。




「……ここにいる人々はどこから湧き出ているんだ?」




基本スペックが、

人嫌い、人混み嫌いの引きこもりである。



辛い…京都駅の人混み辛い…。



圧が強すぎる外国人旅行者の隙間を縫って、

何とかたどり着いたタクシー乗り場。


さあ、タクシーを捕まえようとした時、


「おお!ルイ!迎えに来てやったで!」


大声で名前を呼ばれた。


本当は振り返りたくない。

できるならちゃんと準備を整えてから、会いたかった。


「何固まってんの?はよ乗りや!」


こちらの気持ちを1ミリも慮ることなく、

軽快な京都弁で話しかけてくる。


「……そんなに大声出さなくても、聞こえてる。」


うんざりしながらルイは言った。


そこには、深紅のランボルギーニが停まっていた。

その運転席の窓から顔を出す一人の男。

栗色の髪にパーマをかけ、

切れ長の目が笑って線のようになっている

さわやかな愛想のいい男がそこにいた。


五家の一つ、瀧佐賀(たきさか)家の次期当主、

そして、ルイが訪問予定だった




瀧佐賀(たきさか)ミツキだった。




重心の低すぎる車で向かう先は、

かつて公家の頂点、

五摂家のひとつに名を連ねた瀧佐賀(たきさか)家。

その屋敷は、

下鴨の森の風に守られるようにひっそりと佇んでいた。

黒漆塗りの門扉、白砂の中庭、軒下に咲く木槿。

その奥に進めば、桐の紋が浮かぶ書院造の座敷が、

今なお時を止めたまま息づいている。


歴史ある邸宅に似合わない、

真っ赤なスポーツカーは重低音を撒き散らして、

やっと車庫に止まった。



「おまえ、この車乗ってて腰痛くないか…?」

「何?ルイ、お前親父みたいなこと言うなや!」

カカカッ、と高らかに笑って、

まったく相手にされていない。




――なんか俺、最近こんな扱い多くないか?




ふと、東京に残してきた、弟子(・・)の顔がよぎる。




――はっ!

頭を振りまくって、弟子の姿を消す。

なんでこんな所まで来て思い出すのだ。


やるべきことに、集中せねば……。



『ここへやってきたのは、紋様の謎を解くため!』

そう思い、気を引き締めていると、




「そういえば、

荷物置いたら下鴨さんにご挨拶に行きましょか」


あの愛想のいい笑みでニカッと笑う。




俺は、仕事をしに来たのに……。

コイツに会いに来るといつもこうだ。

ここらの名所はな、

と延々と案内され御託を並べてくれる。

神に誓ってこいつは口から生まれてきている。

ルイは確信している。



かといって、断れるほどルイは強くはない。



夜は祇園あたりに連れて行かれるか、

川床に呼ばれるか…。

なにせおもてなしが好きなのだ。

たまにしかこない街だ。

たまにはこんなのも悪くないか…。

なんて、急かすミツキを見て苦笑した。





========





「で?

その紋様について知りたい、

ってことかいな?」





「単刀直入に言えば、そうだ。」


「……おまんさんの予想は?」


「あっては困るが

――愛禍(アモロス)を呼び起こす魔法陣、かと。」


「……ふーん。それがほんまならけったいな話やな。」




場所は祇園。



瀧佐賀(たきさか)家御用達の料亭の個室である。

ここなら話は漏れないとミツキのお墨付きだ。


「ちなみにそんな魔法陣について、

聞いたことはあるか…?」


知っている可能性に期待する。


「ないな。」


あっさり返された。

これで振り出しに戻ってしまった。

推測は推測のままだ。


瀧佐賀(たきさか)家は、五家の中でも、

魔法陣の構成に優れている。

世界で使われている魔法陣についても造詣が深い。

また、次期当主のミツキは、特に『紋様』に強い。


年齢はルイの一つ下。

五家ということで交流もあり、年も近いとなれば、

もう友人のような扱いだ。


藤凪家の方が物理的な距離は近いが、

ルイが当主になってから、接点も何も無いし、

当主にもあったことはない。


そういう意味で行くと、

京都の瀧佐賀(たきさか)家、

その中でもミツキの方が

なんでもざっくばらんに相談できる。




「……ただ…」

「ただ…?」




「――藤凪が、いろいろやばいもん

発明しとるっって話は聞いとる。」


「……やばいものって?」


「人を操るだとか、

愛禍(アモロス)を操るとか。


そんな話聞いとるから、

愛禍(アモロス)を誘発させる陣を開発しとっても

おかしないなあ。


ただ、そんなやばいもん、

一般人やら襲うために使うか?」


「――俺もそれは疑問だ。

藤凪の当主なら、まず、使わないだろう。」


「《当主》じゃない、藤凪――ってことか?

お前のその様子だと、心当たりがありそうやな…?」



ミツキは、鋭い。



「そいつの封石(フォカ・ジェム)を見た。」

「なんでまた?

封石(フォカ・ジェム)を見る機会があるねん?」

ミツキが驚き半分呆れ半分の顔で言う。


「ラ……弟子についてきた猫に……」


「――はあ!?弟子!?

なんやそれ!?聞いとらんで!」




――しまった、口が滑った。




ライナと言いそうになって、思わず言い換えたら

こちらのほうが墓穴だったか……。


ルイはそろりとミツキを見る。


ミツキは、全部話すまで帰さへんからな

というオーラだだ漏れでこちらを見ていた。



ルイは勝てたことがない相手に

問い詰められる覚悟を決めた。




「――はあ、その嬢ちゃん、

想鎮士(ソメンター)の家系やないのに、

愛禍(アモロス)が見えるし、話せるんかいな。


そらおったまげやな。」


ルイは、ライナと藤凪家との血の繋がりの話は伏せて、

愛禍(アモロス)を昇天させた話をした。

ライナが藤凪家の当主の実子となれば、

色々と面倒なことも多い。

時が立てば話そう。



「そうだ。

そんなことになったもんだから、葉子さんがでてきて…」

「ああ!おまえの苦手なばあちゃんかいな!」



ミツキは、ケタケタと面白そうに笑う。

ルイが葉子に頭が上がらないのが、面白すぎるらしく

いつも必要以上に笑われる。



「んんっ!」

「あ、すまんすまん。」

全然すまなそうじゃない……。



「葉子さんから弟子にしろって言われて

仕方なくだよ。」



本当にあの一言がなければ…。

こんなに悩むこともないのに…。

ん?何に悩むんだ…?



「いやー、でも十八歳やろ?

ピッチピチやないか!」


「はあ?

こんなおっさん相手にされるわけないだろ?」

最近色々あったので自虐気味に答える。


「えー?でもさー?

俺等の仕事って危ない橋も渡るわけやん?

しかも、おまえの交渉力と冷静さは群を抜いとる。


加えてその面や。

仕事ができてイケメン。


しかも、お前も

一緒に茶会(ティータイム)過ごしたりするんなら

ドレス姿見てドキッとしたりとかするやろ?

せえへんの??」


ミツキの言葉に、

ドレス姿のライナや照れまくったライナが

ぱっと思い浮かぶ。


その様子を見て


「あ!お前、今、完全に思い出したやん!」

「――え?は?」


うろたえるルイ。からかうミツキ。

もう止まらない。


「うわー。お前中学生かよ!」

「はあ!?」


「言われて、

ぱっと顔が思い浮かぶって、

それもう




――好き、ってことやろ!!」




ルイは固まってしまった。


身体は動かない。

言葉も出ない。

それなのに、頭の中には

ライナが泣いたり怒ったり笑ったりする様子が

映画のスクリーンのように滑らかに映し出される。




――い、いかん!!!




なんとか無理やり頭を振って

ライナムービーをかき消す。

そして、ミツキの誤解を解くために、口を開く。


「――ちょっとまて。お前…」


しかし、

酒が入って気分が良くなったミツキは、

止まらない。


「だいたいな、

無意識に名前を呼ぼうとするって、

大概、気に入っとるってことやんか?


お前とその子いくつ違う?

とお?

そんなん政略結婚とか山程ある年齢差やんか。


お前の女性関係って完全にドライな関係か、

干物の様な話しか聞いたことないから、

これが最後のチャンスやとおもて、

本気で突っ込めや!




そやなかったら男やないで!」




いつものマシンガントークに

いつもと違うところを叩かれた。


大分失礼なこといってるが、

こいつなりに心配してくれていたのかと

少し嬉しくなる。




だが……。




「いや、だから……」

あくまでもそれとこれとは違うと

話そうとするルイに向かって

ミツキは言った。




「じゃあ、お前その子に



『好き』



って言われたら本気になれるんか?」




――ぐっ!




かなり痛いところを突かれた。

その言葉から逃げて、

今ここにいるはずなのに、

なんでこいつがそれを蒸し返すんだ……!!


その衝撃に声が出なくなったルイを見て

ミツキは、こともなげに言った。








「なんや、両想いやんか。」

作者はミツキ推しです。こういうキャラ大好きです。

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