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29 告白と距離感


『……好き。』






ルイの耳に聞き慣れない言葉が飛び込んできた。


――え? 今、なんて……。




聞いた言葉を、頭の中で何とか処理しようとした。


しかし、

処理できず、まばたきもできず、

ルイは固まった。


顔を伏せていたライナが

はっ、として、顔を上げる。


再びルイとライナの視線が交わる。




「……あ。」

「――う!」



「――何か聞きましたか?」

「あ、え、えーと……。」




次の瞬間、

ライナの顔がゆでダコのように真っ赤に染まる。





「何も言ってません!!!」





そう言って、ライナは部屋を飛び出していった。




「えええ……?どういう事……?」



乙女心など1ミリも理解できていない

顔だけは極上な

宝の持ち腐れたアラサー男を残して。





===========




――声に出てた!!!




逃げた。

ライナは逃げた。

わざとらしいと言われてもいい、

あの場に居続ける勇気がなかった。



――言うつもりなんて全然なかったのに!!



しばらく、更衣室兼休憩室で

置いてあったクッションに顔を突っ込んで

のたうち回っていた。


どうやっても、

さっきの自分の発言は取り消せるはずもなく。





――無になろう。




そして、仕事に没頭した。



松木さんや周りの使用人の人たちに

変な目で見られていたが、

気にする余裕なんてなかった。



ルイに顔を見せたり、

見られる可能性がある仕事は、

「こっちが忙しいので」と苦しい言い訳を添えて

他の人にお願いした。



そうして、

勤務終了時刻になった途端

嵐のようにものすごい勢いで帰宅した。


みんなが小首を傾げる中、

松木女史は、キラリと目を輝かせていた。


帰宅したライナは、

珍しく自分より早く帰宅していた母に

「ご飯いらない」とだけ言い残し、

自室のベッドに倒れ込んだ。





天井を見上げる。





ぱっと目が合った瞬間のルイの顔が

天井に映る。




――っ!!!!

なんでなんでなんで!!!





枕をバフバフとベッドに叩きつける。

……だ、だめだぁ…

どれだけ仕事をやろうとしても

目の前にあの時のルイがでてきて、

全く集中できなかった。


皿を二枚割り、洗濯物をアイロンで焦がし、

高そうな壺を割りそうになった。

(さすがに、壺は身を呈して死守した。

アレを割ったら、一生働いても弁償できない……)




「……こないだまで、こんなことなかったのに…」




もう、自分のことなのに、

全然自分でコントロールできない。



「――いつの間に、こんなに好きになってるんだよぉ。」



どうしたらルイの前で冷静になれるのか

誰か教えて欲しい。

お金なら払うから。払える額だけ。


部屋でジタバタを続けていたら

コンコンとノックが聞こえた。


「ライナ……大丈夫…?」


母のマキが、心配そうに覗き込んでいた。


「――あ、うん、大丈夫!」

ハハハッと作った笑いは、

マキには通用しなかった。


「んなわけないでしょ。」


部屋につかつかか入ってきたかと思うと

鼻をつままれた。


「ふぎっ!」


踏まれた猫みたいな声が出た。


「何年母親やってると思ってるの?」

「……こないだは気づかなかったよ?」

ちょっと意地悪で返してみる。

愛禍(アモロス)に取り憑かれていた時だ。


「……う。

あ、あれは…

悪かったわ……。


ライナが強がりなの

一番母さんが知ってたのにね。」


「ううん。大丈夫。

ちょっと意地悪言った。」


ペロッと舌を出してみる。


「――まぁ!

あんたも親を試すようになったのね。」


呆れ顔のマキ。

そんなマキを見てライナも笑顔になる。


「お母さんさ――

好きな人いないの?」


「――ぶっ!

突然何聞くのよ!」


「だって、もうお父さんが死んでから何年?

十三年?十四年?


お母さんが一人で頑張ってきてくれたの

私わかってるし、

お母さんが幸せになるなら、全然構わないから……。」


そこまで一気に言って、

ライナは膝に顔を埋めた。


しばらくそうしていると

ふわりと頭をなでられた。


「ありがとう。

ライナがそういうふうに思ってくれてるってだけで

お母さん幸せだよ。」


横を見ると目から涙をこぼすマキがいた。


「……えっ!」


マキの泣き顔にうろたえていると、


「ああ!ごめんごめん!!」


マキは目を逸らして

天井を見上げ、フーっと息を吐いてから

改めてライナに向き直った。


「――お母さんはね、

お父さんのことがまだ好きで、

忘れられないの。


周りの人にもたくさん言われたよ。

新しい恋も必要とか、

ライナにお父さんがいたほうがいいとか。


でもね、そう言われるたびに

お父さんの、最期の言葉を思い出しちゃって

全然その気になれなかった。


いつかきっと……。」


マキはそこまで言って、はっと口を閉じた。




「いつかきっと…?」

ライナは静かにマキを見つめていた。





マキは泣きながら笑ってこちらを見た。





「内緒。」





そう言って、フフッと笑った。





==============





マキは、寝室で寝る支度を整えていた。


――ライナも好きな人でもできたのかしら。


そうは思っても、あえて聞かないのが、

母心である。


しかし、再婚してもいいなんて……


「あの子もあの子なりに、

私の心配をしてくれていたのね。」 


ベッドサイドの写真立てを手に取り呟く。

そこには、

幼いライナとその父、ライガが

溢れんばかりの笑顔で写っていた。


「――ライガさん、どうしているかしらね……」


慈しむように写真を撫でながら

マキは呟いた。






――いつか会える(・・・・・・)といいな。






そうして、夜は更けていった。





==============




桐ケ崎家の夜も同じように更けていたが、

此処に、目が冴えすぎて困っているアラサー男がいた。



――いや、あれってどういう……?


素直に受け取れば、

俺が好き(・・・・)……。


いやいや、こんなおっさん、

あんな若い子が相手にするわけない!


『何も言ってません』って叫んでたし、

きっと言い間違え……


そうだよな、そうに違いない。


いやでも……


ゴロゴロと布団を転がりながら

とりとめのないことを延々と頭の中でリピートする。


なんでこんなに気になるのか、

弟子だから気になるのか、

そうだと思いたいだけなのか、


ルイはそのエンドレスループから

全く抜け出せる気がしなかった。




========




その姿を、隙間から覗く二つの輝く目。

松木女史である。


日々、葉子の目となり耳となり働く彼女には、

ルイとライナこの二人の怪しい様子を見逃すなんて

ありえないのである。




『――確実に、何かあったわね。』




葉子に伝えるのが仕事、と言い訳しつつ、

二人の動向を見守るのが楽しくて仕方ない。


『ルイ様ったら、

高校生どころか、中学生レベルの恋愛偏差値だわ。』


バッサリ切り捨てる古参の使用人は、

(あるじ)よりも、

この家の隅々まで把握しているのである。

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