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28 厳しさ=やさしさ?





「まずはそちらの言い分を聞こうか?」


不穏な空気ダダ漏れでよく言う。





ライナは気まずいことこの上なく、

いつもの部屋でいつもの場所に座り、

正座した膝の上で手をモジモジさせている。


「……えーと…」


――さっさと話せオーラがすごい。

整った顔の圧は、

一般人と比較にならないくらい重い。


「友人が、愛禍(アモロス)に襲われていました。」


「それで?」

「友人を助けようとしました。」

「なるほど。で?」



「それだけです。」



「それだけ……。」




ルイが愕然とした顔をしている。

こういう時は、


事実を、簡潔に、述べる、


のが一番である。




「いや、お前!」

「事実ですが。」

「もうちょっとほら!」

「事実です。」




「……はぁ…。」


魂が口から抜けているようだ。




「大丈夫ですか?」

ちょっと助け舟を出してみる。



「――はっ!!」



戻ってきた。

世話が焼ける。

本当にこの人、二十八歳なんだろうか?



「……た、確かに事実だが、

まだ話していない事実もあるだろう!」


「……。」


黙秘権はあると思う。

話したら、ツッコミどころ満載なのは

ライナもよくわかっている。


「……そう言えば、

葉子さんには聞いてみたのですか?」

違う方に振ってみる。


「……うぐっ…。」

――二百パーセント聞いていない。



「……ま、まあいい。」

葉子さんが絡んだ瞬間、

諦めの速度が光速を超えている。




「――ただ…」

「ただ?」


「これだけは伝えておく。」

「はい」






「お前は今回、

――自分の命を落としてもおかしくなかった」





ルイが、まっすぐライナを見つめて言った。

そこには、ふざけている様子は

ひとかけらもなく。

代わりに、愛禍(アモロス)と対峙した時のような

鋭く研ぎ澄まされた墨色の瞳がそこにあった。




ゴクリ。

ライナは息を呑んだ。




こんな表情を向けられるのは初めてだ。


「……すみ、ません、でした。」


「お前は、本当に想鎮士(ソメンター)になるのか?」




「……なりたいです。」

「本当に?」

「はい。」

不純な動機ではあるが……。




ふうーとルイが息を吐く。

緊張の糸は切れない。

厳しい目をライナに向けたままだ。


「お前は今回、

想鎮士(ソメンター)

何においても守らなければならないことを

守らなかった。


まあ、俺が教えていなかったのも悪いが……。

お前がやろうとしていることを

こちらに伝えないのも悪い。」


おっしゃる通りです。

ルイがあまりにも真剣な表情なので

ライナは手汗の量が半端なくなっていた。




ルイが静かに口を開く。




茶室(ティールーム)では、


――常に自分を見失わない。


これが鉄則だ。」




「自分を見失わない……。」


だからあの時、名前を呼ばれたのか――。

してはならないことだから。



「そうだ――。


同情の海に溺れて泣き出す、

怒りに身を任せ怒り出す、

予測しない事態に我を失う、


これらは全て、


茶室(ティールーム)の崩壊


へと繋がる。




それは、


愛禍(アモロス)(あるじ)を喰らい尽くすこと

を意味し、


そして、

その空間を構築した




――想鎮士(ソメンター)の死




を意味する。」



ルイの目がそれが冗談じゃないことを伝えている。

ライナの背中を冷たいものが滑り落ちる。



「俺の茶室(ティールーム)でなければ、

お前は死んでいた。


これは憶測ではなく――真実だ。」



一瞬息が止まる。



何も言えなかった――。

ライナは小さく震えていた。




「お前の話していないことも

話す気になったか?」



ルイは、試すような視線を向ける。

ライナは思わず目をそらし、握りしめた手を見つめる。



ここで打ち明けておかないと、

知らないうちに

――自分が死ぬことになるかもしれない。



ライナは、ルイに話すことに決めた。

納得してくれるかどうかは、分からないけれど。




「……だって。」

「だって?」




「――私の周りで

変なことが起きてるのに……、



私にはただ……!

じっとしてろなんて言うから!」



ルイは目をまん丸にしてこちらを見た。



「そりゃお前…」


「そりゃ私は頼りないですよ!」

「そんなこと言ってな……」

「一緒だし!!」

「――うぐっ!」




ライナの勢いにルイは押されるしかない…。





「わ、私だって……。」


――あなたの役に立ちたいんだよ。




想いが溢れて止まらなくなる。

頬が濡れる。

咄嗟に下を向いて顔を隠す。




「……お、おい?……泣いてるのか……?」

「ほっといて!!」

「ぐっ!」




さっきまでの鋭さはどこへいったのか、

ひたすら慌てふためく頼りなさ気な男がそこにいた。




「ほ、本当に大丈夫……!」


ルイがオロオロとライナを覗き込む。




――ああ、もうなんで優しくするの!

お前はだめだって、

そう言って突き放してくれたらいいのに……!




覗き込んだルイと濡れたライナの視線が交わる。



――ああ、そんなに、

私のことが心配そうな顔をしないで。

勘違いしてしまう。





ルイが私のことを

好きなんじゃないかって。






心臓が大きく跳ねる。

もうかなり前から、この心臓は、

私の言うことを全然聞いてくれない。



ライナは跳ね回る心臓と言葉にならない感情に

振り回されてどうしていいかわからなくなっていた。







――もう、

ほんとに、

ほんとに、

ほんとに、

ルイのことが……。













「……好き。」

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