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20 守られるなんて趣味じゃない女の話

――ライナの自宅を中心にして

愛禍(アモロス)が顕現している……




――これは偶然か…?




ちらりとライナを横目で見やると

口元をきゅっと結び、目から色が消えていた。




――本人は知らなかった…と。




現時点では、故意か、偶然か、判断がつかない。

そもそも、愛禍(アモロス)

『故意に』顕現させることなんてできるのか……?




現時点では、ライナが狙われているとは限らない。




この場所自体が、

愛禍(アモロス)を誘発している可能性もある。

同じ場所に住んでいる

『誰か』を狙っている可能性もある。


「――お前のマンションに…

誰か想鎮士(ソメンター)が住んでいるか?」


「……いや、そんなこと知りません…。

むしろ、ルイ様の方がよくご存知では…?」




――もっともな意見だ。

とりあえず聞いてみただけだ。




『顕現』について、ルイもそう深くは知らない。

基本的には、顕現後の『対処』について

時間を割くことが多いからだ。


それについては、アイツに聞くか……。

そして、

横で言葉をなくしているライナを見ながら思った。





――まずは、ライナをどうするか、だな。





================




『不要な外出はするな。

遅い時間に出歩くな。』




ルイに、小学生の夏休みかよ、と思うような

アドバイスをされて家に送られた。


あ、あと、

――『女』ってことを自覚しろ、

って言ってたな…。


そりゃ、こんなひょろひょろじゃ、

男性に突き飛ばされたら軽やかに飛ばされるよなー

と、斜め上の解釈をしていた。


送ってもらった車内は、とても静かだった。

夏の終わりを告げる夕立が、夜も降り続いていて、

雨の音のせいか、この世に二人しかいないようだった。


ルイは、ついてこなくてもよかったのに、

何も言わずに一緒に車に乗り込んで、

玄関先まで送ってくれた。


ああ、この人はこういうことに慣れてるんだろうなあ、

……なんて、胸がチクリとした。


ただ、今だけは、

私がこの人の時間を独占している、と思ったら

また、――心臓が跳ねた。


――最近どうにも、

自分の心臓の扱いが難しくていけない……。





それにしても、なぜ、

うちを中心に愛禍(アモロス)が顕現しているのか…?





まあ、私が考えたってわかるわけないんだけど…


とりあえず

愛禍(アモロス)(あるじ)以外を襲うことは稀だ、

って言ってた。


でも、なにか身を守れる力が欲しい。

そう思うのは、わがままなんだろうか…?


ルイは、こちらで調べるから、

とにかく気をつけておいてくれ、

って言ってたけど……、




――待ってるだけって、性に合わないんだよね。




なにか…なにか………。





――あっ!!





ライナはベッドからガバっと起き上がり、

スマホを取り出した。




============





ルイはソワソワしていた。




そこへ

和泉(いずみ)さんは、

今日はお休みとのことです。』

松木が淡々と報告してきた。




――キョロキョロしていたのがバレたのか…?




松木は、

物心ついたときから我が家で働いていて、

ちょっとした母親代わりみたいなもんだ。

本人に言うと、

母親じゃなくて、姉にしてください、

と怒られるが……。


葉子とも繋がっているので、

下手なことを言うと、筒抜けになってしまう。

――それで過去、何度も痛い目を見た……。




そういう理由で、

なんでもない顔を取り繕い、


「……そうか。」


なんて、そっけなく答えてみる。

――バレてるよな、バレてるよな……。




先日の浴衣も、びっくりさせられた。


母の物を捨てきれずに残していたのは、自分だが、

それを丁寧に手入れしてくれていたのを、

初めて知った。


松木も母を想ってくれていたことを知り、

素直に――うれしかった。




「――松木、先日はありがとう…」

「何のことでしょうか?」


「母の浴衣を大切に手入れしてくれていたのだな、

と思ってな。」


「……やるべきことをやったまでですので、

むしろ勝手に持ち出して、お咎めを受けるかと……」


「そんなことしないとわかってやったのだろう?」

ルイはふふっと笑う。


「――バレてましたか。」


ニヤッと笑った松木は、

すぐさまいつもの顔に戻ると、


「それでは、お伝えに来ただけですので…」

そう言って仕事に戻った。


部屋にひとりになったルイは、

ふう、と息をはき、






「――そういえば、

アイツは急に休んで何をしてるんだ……??」





============




……はー。

本当にお金持ちって居るのだな…。




桐ケ崎家別邸をみあげて、ライナは思った。


ライナは、思いつきを実行するために、

目的の人物を訪ねて、ここ、鎌倉に来ていた。


到着するが早いか、


「ライナ、久しぶりね!いらっしゃい!」


葉子が笑顔で出迎えてくれた。

――ライナの秘密兵器発動である。


応接間に通され、

こんな部屋に入っていいのだろうかとビクビクしながら、

高級にしか見えないソファに恐る恐る腰掛けた。


向かい側に、葉子が腰掛けている。


いつも和装のイメージだったが、今日は洋装だ。

派手すぎず、かといって、地味というわけではなく、

ステキな水色のワンピースを着こなしていた。


「そのワンピースステキですね!」

素直なのが、ライナの取り柄だ。


「うれしいわ!

うちのうだつの上がらない孫は、

どの服を着てもなーーんにも言わないのよ!

女を舐めてるわね。


女の子ってやっぱいいわねー」


葉子はご機嫌だ。

ルイへの毒もいつも通りだ。




「……早速なんですけど。」


「もちろん。聞くわよ。


――自分の身を守るための《力》が欲しい、

だったかしら…?」


「……そうです。」



あの日、ただ、守られるだけなんて性に合わない、と

衝動的に葉子に電話をかけた。


ルイに言っても、

そんなことしなくていい、

と突き返されるだろうから。


まずは、葉子を味方につけようと考えたのだ。



「私の見解を述べるわね。」

「はい。」


「ライナが、想像している《力》が、

想鎮士(ソメンター)としての力なら、

私は反対よ。」



ガタン!



「……で、でも…」



ライナは賛成してくれるとばかり思って、

びっくりして立ち上がってしまった。




「――最後まで、聞きなさい。」


「……は、はい」




葉子の迫力に、

ライナはおずおずとソファに腰を下ろす。


「付け焼刃の想鎮士(ソメンター)の技術ほど

危ないものはないわ。

使いこなすには、それ相応の鍛錬が必要なの。

ここまでは、わかるかしら?」


「……はい。」


――そりゃそうだよな。



ルイだって、鍛錬を繰り返してきたからこそ、

何かがあってもどっしりと構えているのだろう。


ライナはしゅんと小さくなる。


「……だけどね、

今の状況で、丸腰で、

ただ気をつけろ、はあんまりだと

私も思うわ。」


ライナはパッと顔を上げた。




「……だから、これを渡しておくわ。」


「???」



そう言って、葉子は、何かを手渡した。


手のひらに置かれたものを見てみると……

細い金色の鎖に小さな星のアクセントがついている

華奢なブレスレットだった。




「……ブレスレット…??」




「かわいいでしょ?

でも、かわいいだけじゃないわよ…?」


「……普通のブレスレットに見えますけど…」


「ふふふっ。つけてご覧なさい。」


「……はい。」




ライナは、ちょっともたつきながら、

いや、大分もたついたので、葉子に手伝ってもらって

やっと、ブレスレットをつけた。

普段アクセサリーなんて付けないから、

付け方がよくわからない……。


付けてみると、手首にしっくりとなじむ。

生まれてから今までずっとつけていたかのようだ。




「――自分の体の一部みたい…。」




「さすがね!

このブレスレットにはあなたの持つエネルギー

――想鎮律(ソーチュネート)が流れるようにできている。

想鎮律(ソーチュネート)とは、

想鎮士(ソメンター)が持つ、

愛禍(アモロス)を察知・抑制する力の

精度と強度を数値化したもののこと。


小難しいから、

《気の流れ》のようなものと考えればいいわ。


だから、体の一部のように感じるのよ。


そして、あなたを護る道具になる…。」


「……私を…護る…道具…。」

よくわからないが、すごいものらしい。


「これ、葉子さんが作ったの?」


「そうよ。

私は、想紡師(ソウネリア)ですから…」


想紡師(ソウネリア)……?」


想鎮士(ソメンター)の内に宿る

想鎮律(ソーチュネート)」を読み取り、

それを基に霊的装具を創り出すのが、私の役目。


《想い》の構造や《心の傷》の流れを読み取り、

個々に最も適した形で具現化するの。


そうして生み出した霊的装具を

――紡具スピンドラとよんでいるわ。


紡具(スピンドラ)を介することによって、

想鎮士(ソメンター)は、

己の力を外に解放することができるのよ。」


「――紡具(スピンドラ)…。」


ライナは興味深そうに、

自分の手首に居心地良さそうにおさまっている

ブレスレットを見つめた。


茶会(ティータイム)の空間を構築するには、

かなりの鍛錬が



――しかし、


茶会(ティータイム)を催さない場合、

愛禍(アモロス)が愛に堕ちた所以を

(ほど)く』機会は与えられない。


それは、愛禍(アモロス)を『断罪』するか、

(あるじ)が喰われるのを指をくわえてみているか、




その二択しかないわ……。」




ライナは、ブレスレットから目を離し、

葉子をじっと見つめた。




「――どちらかしかないんですか…?」




「……そうよ。



どちらかしかない。

――ライナならどちらを選ぶかしら?」




「私なら……。」




ライナは、


――選べない


と思った。


自分の大切にしてきた想いによって創られた

愛禍(アモロス)を、

すべて不要なものと切り捨てることも、


大切な人がただ喰われていく姿を

見ているだけという絶望を味わうことも。




だから……




「――私は、私なら。」



顔を上げて、葉子を見つめる。






「――戦います。」






そう答えた。



葉子は、目を丸くして、




――そして、不敵に笑った。

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