11 愛を受け止める覚悟はあるか?
いつも読んでいただきありがとうございます!
ちょっとホット一息な回です。
……ずっ、ずずっ。
「落ち着いたか?」
「……ふあぃ。」
ライナは
体の中の水分がなくなるほど、涙が出た。
人生で一番泣いた。
これだけ長く涙が止まらなかったのも、
これだけ長く誰かの腕の中にいたのも、
――初めてだった。
やっと落ち着いて、
ルイから身体を離すと、
涙と鼻水で
ルイのシャツが大変なことになっていた。
「……ご、ごめんなさいっ!」
こんな仕立ていいシャツ、私の小遣いじゃ買えない!!
と青ざめて、
シャツとルイの顔を
行ったり来たりしていると。
ルイの口元がわずかに緩んで、肩が震えた。
珍しく、笑いを堪えられないらしい。
――え?
静かな笑い声が、やがて抑えられずに弾けた。
「――っく、あははは!」
――なぜだ……?
ライナには、なぜこんなに笑うのか
全く心当たりがない。
そして、これは、笑い過ぎではないだろうか?
顔がクシャクシャになっている。
「……まったく、お前には敵わんな。」
ライナは、はっとして洗面所へ駆け込んだ。
鏡には、シンデレラのような美しく整った顔ではなく、
泣きすぎてパンパンに腫れた目と、
真っ赤な鼻、ベチョベチョに濡れた赤い頬、
髪がボサボサのライナがいた。
「――うわー!!!!」
一瞬で我に返った。
こ、これは恥ずかしい!!!
保育園児が泣きじゃくったときみたいだ!
もう十八なのに…!!!
顔を洗い、髪の毛は水をつけた手ぐしでなんとか整え、
なんとか見れる感じに、
いや、まだ泣き腫らした目はどうにもできないけど。
まだ、人の前に出ても大丈夫か、
というギリギリのラインになったことを鏡で確認し、
ゆっくりと洗面所から、ルイの方をうかがうと……。
――まだ尾を引いている。
どんだけ笑いの沸点低いんだよ!!
ライナは、最終手段で
その辺にあったタオルを引っ掴み
頭からかぶった。
そして、ドスドスドスと
わざと音を立てて大股で歩き、
ルイの横にどかっと座った。
ルイは、ライナが横に座ったのに気づくと
「大丈夫か?」
と覗き込んできた。
不意打ちでルイと目が合うと、
ライナの心臓が大きく揺れた。
顔が熱を持ったのが分かった。
「――っ!
隠してるんだから!
わざわざ覗かない!!」
ライナは赤くなったであろう顔をみられないように
そっぽを向き、答えた。
「――すまん。」
全く悪びれていない声で、返事をするルイ。
そして、まだ笑いの尾を引いている。
「俺に怒れるくらいになら、もう大丈夫だな。」
そういいながら、ライナの頭をポンポンとなでた。
「――んんっ!!」
ライナの心臓は乱高下して、足元までおぼつかない。
これじゃあ。
私がまるで……
――ルイを好き、みたいじゃないか……。
ライナの胸中などつゆ知らず、
ルイは、時計を見やると、
「遅くなったな。送っていく。」
と、どこかに電話をかけ始めた。
その隙に、
熱る顔をタオルの下でなんとかなだめた。
そして、マキを抱きかかえたルイと
ビルの前で迎えの車を待った。
程なく、見覚えのある高級車が
三人の前に滑らかに停車した。
車に乗り込み帰路につく。
街はキラキラと輝き、
大勢の人が行き交っているが
車内は瞬きの音が聞こえそうなほど
静寂に満ちていた。
マキはまだ眠っていた。
ライナは膝枕をし、母の寝顔を見下ろしていた。
こんなに近い距離にいるのはいつぶりだろう。
すぅすぅと規則的な寝息が聞こえる。
ライナは、その音に、日常が戻ってきた事を
噛み締めていた。
そして、
ゆりかごのような車の揺れに、
ライナはいつの間にか眠りに落ちていた。
「…い、おい、家に着いたぞ。」
そっけない、いつもの美声が
ライナを現実へ引き戻した。
「あっ…」
案内なんて一言もしなかったのに、
1ミリも違わず、我が家のマンションの前に
高級車は止まっていた。
見ると、ルイがマキを抱きかかえようと
しているところだった。
「――すみません!」
慌てて、シートベルトを外し、
ルイがいる側と反対側のドアを開けて、
駆け寄る。
「……なんで謝る必要がある?」
淡々と、何でもないことのように返された。
手伝おうとした手は、空を掴み、
どうしようかとためらっている間に、
ルイは、どんどんマンションの中に入っていく。
運転手は当然のように控えている。
ライナは、目の前の状況が飲み込めず、
その場に立ち尽くしていた。
「――おい!何突っ立ってる!?」
「ひゃい!」
ルイに呼ばれて我に返る。
そして、エレベーターの前で、
イライラしながらライナを見ている
ルイのもとに駆け寄る。
――これが、ルイ様だよなあ。
さっきまで、
どうやっても鳴り止まなかった心臓の音は
あっさり通常仕様に戻っていた。
ルイは、マキをベッドまで運んでくれた。
正直言ってとても助かった。
ライナ自身、気力も体力も完全に底をついていて
今すぐベッドにダイブしたい気分だったからだ。
母との間で、
『男を連れ込まない』というルールがあるが
今回は不可抗力なので
カウントゼロでお願いしたい。
ライナは、マキの部屋のドアから
ルイとマキを眺めていた。
何も考えたくなかったし、
何も考えられなかった。
一瞬、
ルイがピクッと何かに反応した気がしたが、
気のせい……?
部屋からでてきたルイは、
「――お前、
やっぱり“俺と同じ”……
――いや、いい。」
とそこまで口にして、言い淀んだ。
ライナの今の思考回路では、
それが何を意味するのか、全く思い当たらなかった。
「……え?」
「――何でもない。
お前もゆっくり休め。
夜遅くに押しかけてすまなかった。」
「あ、はい。
こちらこそ、母を送ってもらって助かりました。
――ありがとうございます。」
ペコリとお辞儀をすると、
ルイは、こちらに背を向けたまま
はいはい、といった様子で手をヒラヒラさせて
帰っていった。
ライナは、それを見届けると
自分の部屋のドアを開け、
ベッドに倒れ込んだ。
頭も、身体も、限界をはるかに超えていた。
目を閉じると、ルイの笑顔がよぎった。
思わず頬が緩んだのも束の間、
ライナは、一瞬で
――眠りに落ちていた。
最後まで読んでいただき
ありがとうございます!
ライナは、ルイと何が同じなんでしょー?
予想を是非コメントへ!
次回、お楽しみに!




