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第12話 キリマンジャロ登山5日目

 登山5日目(下山2日目)。

 吐き気も峠を越し、少し食欲が戻ってきたようだ。晴天の中、3組とも適当に出発する。出発前に年齢不詳のドイツ人男性が話しかけてきた。

「マラングゲートに着いたら、待ち合わせて4人一緒にモシまで行こう」

「O.K.」


 標高2700mのマンダラハット到着辺りから吐き気はほぼ落ち着いた。

 下山を続けながら、自問してみる。

 (自分にはまだ時間はある。この旅最大の目標であるアフリカ最高峰登頂を果たせぬまま帰国して良いのか?)


 何ら躊躇する事はなかった。良いはずがない。答えは『ノー』だ。この後のザンジバル島を訪ねた後、再挑戦しよう。予定外だが、これが自分の旅だ。再び、身が引き締まってきた。


 下りは楽だ。昼過ぎには無事、マラングゲートに到着した。ティップは既にドイツ人男性から全員の分をガイドに渡してもらっていたが、自分を担当してくれたポーターにそっと登山用の靴下をあげた。初めて聞く彼の英語は

 ”Thanks”

だった。


 ドイツ人、中国人の夫妻はノンビリしている。後は、日本人看護婦の説子さんを待つだけ。ドイツ人がガイドと何やら話している。近くに日本人の若いカップルもいる。

 ガイドがドイツ人に訊ねた。


 "How old are You ?”

 "Thirty-one."


 "No, Forty."


 ドイツ人はすぐさま、パスポートを取り出して、見せた。

 こちらも驚いた。31歳だった。何としっかりしている(思い切り老けている)。

 みんなと離れて寛いでいたら中国人の奥さんがやって来て、話しかけてきた。


 "We 're gonna NGORONGORO, now.”

 " I'm waiting Japanese Woman."


 夫婦の間では考えが違っているようだ。

 その後、ご亭主殿に何か話している。31歳のドイツ人の英語がはっきり聞こえた。

 ”I promised yesterday."


 その後すぐ、中国人の奥様がやってきて、私に改めて

 "We'll leave now."


と言って、涼しい顔で先に発った。ご亭主は私に声を掛ける事なく、申し訳なさそうな表情で後に続いた。女は強い。

 やがて、説子さんが到着した。夫妻に約束を反故にされた事を伝えると、こちらも涼しい顔で何の驚きも見せず、

「うん、私は遅いので構わない」


 ドイツ人男性に一つ理解できない事がある。それは大きなハードケースの荷物をポーターに持たせていた事である。登山には不釣り合いなこんなケースを何故? もうYMCAには戻らないつもりで、荷物一式持ってきたのか? 普通は登山に不要な荷物はYMCAに預けておくものだが。


 さて、後はYMCAに戻るだけである。下山はみんなばらばらになる所為かツアーバスはないようだ。個人運営の乗合タクシーらしいのがさかんに声を掛けてくる。国境の町ナマンガの雰囲気に似ている。モシ迄3000シリングはタンザニアにしたら高すぎる。日本円で2100円ほどである。

 途中のキボホテル迄5km歩けば、そこから公共バスが出ている。取り敢えず、説子さんと2人で歩く事にした。ずっと下りだから楽である。道中で見かけた農家のバナナやコーヒーの樹が情緒を誘い良いムードだ。珈琲の樹とは初対面であった。

 子供たちが野の花を手にして駆け寄ってくる。みんな笑顔が可愛い。


「見返りを期待してるのね」

 そう、説子さんが呟いた。

 そうかもしれない。でも可愛い。

 

 キボホテルに着いた時、YMCAに行くなら乗って行かないかと乗合タクシーの客引きみたいなんに声を掛けられた。一人1000シリングというので乗る事にした。既知の日本人の若いカックルも乗っているところをみると、彼等のツアーのバスのようだ。


 久しぶりにYMCAに戻ってきた。新たに加わった日本人男子1人を交えて、日本人5人でいろいろと会話を楽しんだ。新来者は1年間休学中の大学生で、来年3月まで世界旅行中との事である。一気に世界旅行とは素晴らしい。


 テラスから見える全開のキリマンジャロの何と美しい事。数週間後の再挑戦を胸に、今夜はゆっくり眠ろう。 

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