告白
透明な服を売る詐欺師の一件が終わり、平穏を取り戻した国。しかし、その平和の影には、王の慈愛と誠実さを逆手に取ろうとする新たな悪意が忍び寄っていました。
透明の服を売る詐欺師の一件が終わり、国は再び平穏を取り戻していました。
王はいつものように街を見回り、民の暮らしを直接見て回っていました。その道中、一人の貧しげな老婆に声をかけられます。
「王様、冷えた身体を温めるためにどうぞこれをお召し上がりください。」
老婆は赤く美しいりんごを差し出しました。その優しさに心を打たれた王は微笑みながら言いました。
「ありがたい。このような心遣いを受けては、私も礼をせねばならんな。」
王は老婆に自らの上着を脱いで渡しました。そして、りんごを食べたその瞬間、目の前の老婆が変身し、悪い魔法使いの姿を現しました。
「そのりんごには、食べた者が徐々にロバに変わる魔法がかけられておる。最初に耳が生え、次第に毛が濃くなり、最後には完全にロバになる。そしてこの魔法は、人々に笑われれば笑われるほど、変化が早くなるのじゃ。精々怯えて暮らすが良い、フォッ、フォッ、フォッ…」
そう言うと、魔法使いは煙と共に姿を消してしまいました。
王は困惑したものの、特に体調も悪くなく、身体の変化も見られないため、その日は何事もなく過ごしました。しかし、翌朝目覚めると鏡に映った自分の姿に驚愕しました。
「こ、これは…耳が!」
王の頭には長いロバの耳が生えていたのです。
異形となった自分に強い羞恥心を抱いた王は、笑われるのを恐れて外出を控え、髪を伸ばして耳を隠すようになりました。それまで頻繁に街を見回っていた王が姿を見せなくなると、民たちは次第に心配し始めます。
ある日、王は髪を整えるために床屋を城に呼びました。床屋が王の髪を切っている最中、隠されていたロバの耳を目にしてしまいます。驚きで手を止めた床屋に、王は低い声で告げました。
「このことを誰にも話してはならぬ。これは国家の一大事となりかねない。」
床屋は敬愛する王の秘密を守ることを誓いましたが、日が経つにつれてその秘密の重みに耐えられなくなりました。
「天知る地知る彼我知る…どうしてこの秘密を守り通せようか!」
床屋は、王の秘密を守るために自ら命を絶とうとしました。城から飛び降りようとする床屋を見て、王は驚き、慌てて止めました。
「何をするのだ!そのようなことで命を粗末にしてはならぬ!」
床屋の話を聞いた王は、自分のために床屋や城の者たちが苦しんでいることを知り、深く恥じました。
王はロバの耳を隠すことをやめる決意をしました。そして、全てを民に明かすため、広場に出向き、国中の人々を集めて高らかに宣言しました。
「見よ!これが私の姿だ。私は魔法をかけられ、このような耳を持つ身となった。しかし、私はまだ人の形を保っておる。そして民のために全身全霊を尽くす覚悟は変わらぬ!今後、私がどのような姿になろうとも、この国を守り続けることを誓う!」
王の堂々とした態度に、民たちは感銘を受け、口々に言いました。
「どんな見た目であろうと、あなたは私たちの王です!」
その言葉を受け、王は羞恥心を振り払い、王冠を外してロバの耳を堂々と晒しました。
王が堂々と耳を晒すと、羞恥心と嘲笑という魔法の栄養源が失われ、魔法の進行は次第に止まりました。やがて耳は普通の姿に戻り、民たちは王への敬意と愛をより一層強くしました。
一方、悪い魔法使いは街中の人々が血眼になって探し、ついに捕らえられました。王の前に連れ出されると、魔法使いは血相を変えて言い訳を始めました。
「ち、違うのです!私はある方に雇われてやっただけなのです。お金を返します!真犯人も白状します!ですので、お命だけは…!」
その時、どこからともなく大量のネズミが現れ、魔法使いに襲いかかりました。魔法使いはネズミたちに食い尽くされ、命を落とします。その後、ネズミたちも跡形もなく消え去りました。
「一体誰が…」
続く…