改心
この物語は、「透明な服」を売り歩く詐欺師が、慈愛に満ちた名君と一人の純粋なメイドに出会い、自らの人生を見つめ直す物語です。
透明な服を売り歩いてきた詐欺師は、ついに故郷の国に戻ってきました。この国の新しい王は、積極的に貧しい者に施しを行う慈愛に満ちた、誠実な人柄で知られ、民から深く慕われる名君だという噂が広まっていました。
「ここなら、また大儲けできる!」
詐欺師たちは早速、透明な服を売り込む計画を立て、王宮に赴きました。
詐欺師たちは王の前で例の口上を述べ、透明な服の美しさを力説しました。
「この服は、愚か者や正直でない者には見えない特別な服でございます!」
しかし、王はその話を聞くや否や、激怒しました。
「誠実を欺く者は、この国には必要ない!」
詐欺師たちの話を一蹴した王は、躊躇なく彼らの処刑を命じました。その時でした。
「お待ちください!」
一人のメイドが王の前に進み出て、こう続けたのです。
「まぁ、なんて素敵なお洋服でしょう!こんな美しい服は見たことがありません!」
突然のメイドの行動に、その場の全員が困惑しました。このメイドは、日頃とても真面目で気立ても良く、王をはじめ城の誰からも信頼されている人物だったのです。
実は彼女は、かつて先王の時代、この国が貧しかった頃に難病を患った幼い娘でした。治療費を稼ぐため、父は外国に出稼ぎに行ったきり行方不明。母親も女手一つで彼女を育てる中で無理がたたり、数年前に亡くなっていました。そんな時、代替わりした王が彼女をメイドとして雇い、生活を支えていたのです。
彼女は再び王に向かって深々と頭を下げました。
「まあ、なんて美しい服でしょう!ぜひ私に着させてください!」
その目には涙が溢れていました。
困惑する王は、これまで見せたことのない厳しい口調で問いただします。
「君は、本当にその服が見えるのか?まさかとは思うが、この詐欺師たちと結託して、私を騙そうとしているのではないか?」
「滅相もございません!今すぐ着てみせます!」
そう言いながら、彼女は涙を流しつつ服を脱ごうとしました。その時、詐欺師の一人が制止し、平伏しました。
「王のおっしゃる通り、私どもは詐欺師でございます。透明な服など存在しません。どうぞ、今すぐ私の首を刎ねてください!」
すると、メイドがすかさず前に進み出て言いました。
「服は確かにございます!費用は私がお支払いいたしますので、ぜひお譲りください!」
この様子に詐欺師は心を打たれました。
「この娘は、哀れな私を気の毒に思い、庇ってくれているのです。どうか彼女だけはお赦しください!」
王が静かに詐欺師を見据えます。
「おい、詐欺師。お主、何か隠しているだろう。全てを白状すれば、このメイドだけは許してやる。」
詐欺師は覚悟を決め、すべてを語り始めました。
「実は、この娘は私の一人娘でございます。この子が幼い頃、大病を患いました。当時この国はまだ貧しく、治療費を稼ぐために私は外国に出稼ぎに行きました。しかし、その後妻も娘も死んだと聞き、自暴自棄になりました。真面目に働くのが馬鹿らしくなり、私は詐欺師に成り果てたのです。王侯貴族を相手に詐欺を働いていたのも、戦争ばかりして国を貧しくする連中への復讐だったのかもしれません…。それでも死んだと思っていた娘が生きていると知っただけで、本望です!どうか、どうか娘だけはお許しください!」
涙ながらに訴える父に、娘も必死で言いました。
「どうか父をお許しください。彼は改心しています。私が責任を取ります。」
王は二人の姿を見て、しばらく沈黙していました。そして、口を開きました。
「なるほど、分かったぞ!お前たちはワシを騙そうとしたのではなく、何もないものを、さもあるように見せる芸をしておったんだな!そうであるならば実に見事な演劇ではないか!」
詐欺師たちは驚き、顔を見合わせます。
「そうならそうと早く言えばよい。いやはや、一時は騙されたと思い処刑にしようとしたが、演技と分かれば見事な技だ。ある意味、すっかり騙されたわい!」
王は笑顔を浮かべて命じました。
「お前たちに命じる。この国に留まり、この見事な演技で民を楽しませよ。ただし、誠実に働け。これがワシの命令だ。」
詐欺師たちは命を救われた感謝で涙を流しました。
「そういえば、お前たちの名は何と申す?」
詐欺師のリーダーが答えます。
「パンとマイムでございます。」
王はその名を気に入りました。
「よし、今日からお前たちは『パントマイム劇団』だ!この国の民を大いに喜ばせるのだぞ!」
こうして詐欺師たちは娘と共に「透明な服」をテーマにした風刺劇を始めました。それは大いに人気を博し、国中に笑顔をもたらしました。詐欺師たちは改心し、誠実に新しい人生を歩み始めます。
王の寛容と機転、そして娘の純粋な心が、詐欺師たちを救ったのです。こうして「パントマイム劇団」の名は、伝説として広く語り継がれることになりました。