解放
重責に苦しむ凡庸な王様が、見つけた真の自分らしさとは?
昔々、ある国に服を着るのがとにかく嫌いな王様がいました。
王として凡庸だった彼は、国王という立場の重圧に苦しみ、心の奥で常に解放を求めていました。少しでも締め付けをなくすため、自室では常に裸で過ごしていたのです。
ある時、裸でリラックスしているところを侍女に見られ、王様はものすごい羞恥心に襲われました。しかし同時に、心の奥底で何か別の感覚が弾けたのです。それ以来、彼はますます服を着ることに嫌悪感を覚えるようになりました。
そんなある日、透明な服を売る詐欺師が現れました。王様は凡庸とはいえ、これがただの嘘であることにすぐに気付きました。しかし、裸になりたいという彼の欲求にとって、これは千載一遇のチャンスでした。王様は嬉々としてその服を買い、こう言いました。
「これで堂々と裸でいられるぞ!」
王様は早速、透明な服を「美しい」と称賛し、着る仕草をしただけで裸のまま街中を歩き始めました。国王としての重圧から解放され、人生で初めて自分らしく振る舞えることに無上の喜びを感じた彼の表情には、恥じらいの欠片もありません。その姿は、歴史上の名君や大帝を彷彿とさせるほど堂々としていました。皮肉なことに、王様は初めて「王らしく」振る舞うことができたのです。
最初は嘲笑していた国民たちも、日頃風采の上がらない王様のあまりの堂々たる態度に次第に混乱し始めました。
「ひょっとして、あれが本当に素晴らしいものなのでは?」
こうして国民も次第に服を脱ぎ捨て、透明な服を買い求めるようになりました。国中が裸になり、普通の服屋は消え去っていきました。
ある日、隣国から使者がやってきました。使者は裸で堂々と歩き回る王と国民たちを見て、腹を抱えて大笑いしました。
「お前たちの王はただの変態だ!こんな姿を見て恥ずかしくないのか!」
しかし、王と国民たちは態度を崩さず、胸を張って答えました。
「何も恥じることはない。この透明な服は、真に素晴らしいものなのだ。」
その堂々とした態度に、使者も次第に困惑していきました。
「…いや、待て。もしかして、これは私が愚かだから見えないだけなのか?」
そして、国民たちの自信と開放感に満ちた姿に触れ、使者はこう思いました。
「これほど堂々とした生活、試してみても悪くないかもしれない。」
使者は国を発つ頃にはすっかり裸生活に慣れ、帰国する頃には完全に透明な服の信者になっていました。隣国に戻ると、彼はすぐに透明な服屋を開業しました。その「新しい文化」に魅了された隣国の人々もまた、次々に服を脱ぎ捨て、透明な服を買い求めるようになりました。
その隣国の文化はさらに別の国へ広がり、やがて世界中が透明な服に夢中になりました。最初は馬鹿げていると笑っていた国々も、堂々と裸で生活する人々の自信と自由さに魅了され、次第に服を捨てていきました。ついには、この世から普通の服屋は姿を消し、世界は完全に「透明な服の時代」に突入したのです。
こうして、ただの変態だった王の趣味は、世界の文化そのものを変える結果となりました。裸の王様が創り出したこの奇妙な世界――それが正しいのか愚かしいのか、今となっては誰にも分からないのです。