プレアデス星団
冬の夜、星宮家のリビングは静かだった。
すばるが過去の話を終えると、あゆみは目を潤ませていた。
「すばるさん……ありがとう、話してくれて。」
彼女の声は震えていた。
すばるは小さく笑い、
「いや、僕の方こそ。あゆみちゃんが聞いてくれて、少し楽になったよ。」
時計の針が深夜を指す中、
二人はココアを手に、ソファに並んで座る。
あゆみがふと、結婚式の写真を手に取る。
「麻子先生や圭吾くん、ゆうきさん……みんな、すばるさんを支えてくれた人たちなんだね。」
すばるが頷き、穏やかに答える。
「ああ、彼らがいたから、今の僕がある。」
あゆみは写真を見つめながら、
「それで……蓮くんと莉桜ちゃんのこと、あの子達のお母さんのことも、やっと分かったよ。」
すばるは一瞬目を伏せ、
「沙月とは、大学生の頃に出会ったんだ。」
短く息をつき、続ける。
「最初は普通の恋愛だった。でも、子どもが生まれて、僕が家事も育児も背負うようになって……彼女は居場所を失ったんだと思う。」
あゆみが小さく呟く。
「それで、離婚したんだね……。」
「うん。でも、沙月を責める気にはなれないよ。あの頃の僕は、自分で全部やろうとしすぎてたから。」
すばるの声には、静かな理解が込められていた。
あゆみは拳を握り、
「でも、私には許せないよ!すばるさんがそんなに頑張ってたのに!」と少し声を荒げる。
すばるが笑い、
「もういいよ、あゆみちゃん。過去は過去だ。」
その優しさに、あゆみは目を丸くする。
「すばるさんって、本当にすごいね。私なら、そんな風に思えないよ。」
すばるはココアを飲み、
「慣れただけだよ。痛みも、恐怖も、ずっと背負ってる。でも、今はそれでいいと思えるようになった。」
その言葉に、あゆみは静かに頷く。
翌日、冬の晴れた週末。
すばるは蓮と莉桜を連れて、庭に出る。
あゆみも毛布を持ってきて、みんなで星空を見上げる。
蓮が「パパ、あの星きれい!」と指差す。
すばるが穏やかに教える。
「プレアデス星団だよ。離れてても、一つに輝いてる。」
莉桜が「キラキラ!」と手を叩く。
あゆみが笑いながら、
「すばるさんや私たちみたいだね。」
蓮が突然、
「パパとあゆみちゃんとぼくら、ずっと一緒だよね?」
と聞く。
すばるは一瞬言葉に詰まり、
目を潤ませながら頷く。
「うん、ずっと一緒だよ。」
その夜、玄関のチャイムが鳴る。
すばるがドアを開けると、裕樹が立っていた。
「久しぶりだな、すばる。」
「おじちゃん!」と莉桜が駆け寄る。
裕樹が笑い、
「おじちゃんじゃないって!まだ若いぞ。」
リビングに戻り、みんなで笑い合う。
裕樹が「お前、幸せそうだな」と言うと、
すばるが「まあ、なんとか」と肩をすくめる。
あゆみがココアを運びながら、
「聞きましたよ。すばるさんがここまで来られたのは、奇跡だよね。」
裕樹が頷き、
「ああ、あの頃のボロボロだったすばるが、こうやって家族を作ってるなんてな。」
すばるは苦笑しつつ、
「確かに、不運ばっかりだったけど……今は、それも悪くなかったと思えるよ。」
窓の外、星が輝いている。
すばるは思う。
(幸せって、こんな近くにあったんだ)
虐待、勘当、離婚――砕けた心を抱えながらも、
あゆみや子どもたち、友との繋がりが、
すばるの人生を星団のように輝かせていた。
過去の痛みは消えない。
でも、それがあってこその今だ。
すばるは家族を見渡し、
静かに目を閉じる。
これが、彼の救いだった。




