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昇華の兆し


 あゆみが訪れた日から数日後、すばるは夜遅くにリビングに座っていた。

 子どもたちが寝静まり、家の中は静寂に包まれている。

 テーブルの上には、昔のアルバムが無造作に置かれていた。

 何気なく手に取ると、母との写真が目に入る。

 勘当された日の記憶が、鈍い痛みとともに蘇る。

 次に、沙月と写った写真。

 離婚が決まったあの日の冷たい空気が、胸を締め付ける。

 すばるは目を閉じ、深く息を吐いた。

(こんな痛み、ずっと消えないと思ってた……)

 アルバムを閉じると、ふと蓮と莉桜の笑顔が浮かぶ。

 あゆみのぎこちなくも優しい声も、重なるように響いてくる。

(砕けたからこそ、見えるものがあったんだな)

 すばるは立ち上がり、窓辺に近づく。

 冬の夜空に、星が静かに瞬いている。

 プレアデス星団の話を思い出す。

 離れていても、一つに輝く星々の集まり。

 自分の人生も、そうなのかもしれないと考える。

 翌朝、すばるはいつもより少し早く目を覚ました。

 蓮と莉桜を起こし、朝食を用意する。

 蓮が「学校楽しみ!」と目を輝かせる。

 莉桜が「ケロケロ!」とカエルの真似をして笑う。

 その無邪気さに、すばるは自然と微笑む。

 保育園に送り届けた後、学校に向かう道すがら、

 すばるはあゆみにメッセージを送った。

「今度、子どもたちと公園に行かないか?」

 返信はすぐに来た。

「いいですね!楽しみにしてます。」

 そのシンプルな言葉に、すばるは小さく笑う。

 週末、すばるは蓮と莉桜を連れて近所の公園へ向かった。

 あゆみはすでにベンチで待っていて、手を振る。

「先生、おはようございます!」

「如月さん、おはよう。早かったね。」

 蓮が「あゆみちゃん、競争しよう!」と走り出し、

 莉桜も「私も!」と追いかける。

 すばるとあゆみも笑いながら後を追う。

 公園の芝生で、みんなで競争が始まる。

「パパとあゆみちゃん、どっちが速い?」

 蓮の声に、すばるが「負けないぞ」と返す。

 あゆみが「私だって頑張るよ!」と笑う。

 走り終わると、息を切らしながら全員で芝生に座り込む。

 蓮と莉桜が笑い合い、あゆみも楽しそうに目を細める。

 すばるはその光景を見ながら思う。

(痛みは消えない。でも、それでも生きていける)

 虐待を受けた子ども時代、母に捨てられた日、

 沙月に去られた瞬間――どれも消えない傷だ。

 でも、今ここに蓮と莉桜がいる。

 あゆみの笑顔がある。

 一時保護で感じた絶望も、

 この時間の中で少しずつ薄れていく。

 帰り道、蓮が「あゆみちゃん、また遊ぼうね!」と言う。

 莉桜も小さな手で「あそぼ!」と真似する。

 あゆみが「うん、またね」と笑顔で答える。

 すばるはそのやり取りを見ながら、

 胸の奥に小さな希望が灯るのを感じた。

 夜、子どもたちが寝た後、すばるは星空を見上げた。

 プレアデス星団が、冷たい空に輝いている。

(バラバラでも、繋がれば輝けるんだな……)

 過去の痛みを抱えたままでも、

 今を愛おしむ気持ちが芽生えている。

 それは、すばるにとって新しい一歩だった。


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