表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/85

訪れる安心感

 次の週末、すばるは朝から少し緊張していた。

 蓮と莉桜がまだ眠る中、リビングを片付け、昼食の準備を進める。

 あゆみが来るというだけで、いつもと違う空気が流れる気がした。

 窓から差し込む陽光が、冷たい冬の訪れを柔らかく包んでいる。

 昼前、インターホンが鳴る。

 玄関を開けると、あゆみが少し硬い笑顔で立っていた。

「先生、お邪魔します。」

「いらっしゃい、如月さん。上がってよ。」

 あゆみが靴を脱ぐと、蓮が階段を駆け下りてきて、

「あゆみちゃん来た?」

 と覗き込む。

 莉桜も小さな足音を立てて現れ、興味津々に近づく。

 あゆみは二人を見て、ぎこちなく手を振った。

「こんにちは、蓮くん、莉桜ちゃん。はじめまして。」

 リビングに通すと、莉桜が「お姉ちゃん、誰?」と無邪気に尋ね、

 あゆみが「如月さんだよ。一緒に遊んでくれるよ」とすばるがフォローする。

 莉桜はすぐに笑顔になり、

「あゆみちゃん!一緒に遊ぼう!」

 と小さな手でおもちゃを差し出した。

 あゆみは一瞬戸惑った後、「よろしくね」と優しく答える。

 すばるはその様子をソファから見守る。

 あゆみの不慣れな仕草や、緊張を隠そうとする笑顔が目に入る。

(如月さん、子どもが苦手なんだな……でも、それでもここに来てくれたんだ)

 蓮は少し距離を置いて、二人の様子を静かに見つめていた。

 すばるが「蓮も一緒に遊ぶか?」と声をかけると、彼は小さく首を振る。

「いい。」

 その控えめな態度に、すばるはふと一時保護の日を思い出す。

 あの時、蓮が保育園で「パパが怖い」と言った言葉が、ずっと胸に刺さっていた。

 でも今、こうやって家にいてくれる。

 しばらくして、蓮が積んでいたレゴブロックが崩れる。

 あゆみが「大丈夫?」とそっと声をかけると、蓮は一瞬驚いたように彼女を見る。

「手伝ってもいい?」

 あゆみの言葉に、蓮が小さく頷く。

 彼女が隣に座り、一緒にブロックを積み始めると、

 莉桜も「私もやる!」と加わった。

 三人で積み上げるうちに、蓮の声に少し明るさが混じる。

「ここ、もう少し高くしようか?」

「じゃあ、僕がこれ乗せる!」

 すばるはその光景に目を細める。

 あゆみの不器用な優しさが、子どもたちに自然と受け入れられている。

 昼食時、すばるが作ったサンドイッチをみんなで食べる。

 莉桜が「あゆみちゃん、食べる?」と自分の分を差し出し、

 あゆみが「ありがとう」と笑う。

 蓮も黙って一口食べながら、時折あゆみに視線を向ける。

 すばるは思う。

(あの日の重さが、こんな時間で薄れていくなんて……)

 一時保護の連絡を受けた日、職員の冷静な声と子どもたちの涙が頭をよぎる。

 でも今、目の前で笑う蓮と莉桜がいる。

 あゆみの自然な存在が、あの記憶を遠ざけ、

 すばるに「今を生きていいんだ」と気づかせてくれた。

 夕方、あゆみが帰る時、玄関でこう言った。

「楽しかったです。また来てもいいですか?」

「いつでもいいよ。如月さんが来てくれると、子どもたちも喜ぶし……僕も、嬉しい。」

 蓮と莉桜が「またね!」と手を振る。

 あゆみが笑顔で応え、ドアが閉まる。

 すばるはその姿を見送りながら、胸の奥に温かいものが広がるのを感じた。

 夜、子どもたちを寝かしつけた後、すばるはリビングでコーヒーを飲む。

 あゆみのぎこちない笑顔や、蓮とブロックを積む姿が頭に浮かぶ。

 あの日の自分を責める気持ちが、今夜は少し軽くなっていた。

(完璧じゃなくても、こうやって繋がっていられるなら……)

 窓の外の冬の夜空に、星が静かに瞬いている。

 あゆみの優しさが、一時保護の重い記憶を薄れさせ、

 すばるに新たな安らぎを与えていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
是非こちらもご覧ください!

砕けた昴登場人物

「砕けた昴」と「この道を歩む」は、関わり合う物語です。

それぞれのキャラクターが織り成すストーリーが、互いに新たな視点を与えてくれます。

それぞれの視点で紡がれるストーリーを、ぜひご覧ください!

この道を歩む

心がほどける時間

― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ