消えた朝
朝、沙月はいつものように仕事へ向かった。しかし、その日の夜、彼女は帰ってくることはなかった。
すばるは家の中を静かに見渡した。違和感はあったが、驚きはなかった。
(またか……)
心の中でそう呟く。父と母の離婚、母に勘当されたとき——大切な人が、自分から離れていくことは、彼にとってすでに慣れ親しんだ感覚だった。
だから、沙月がいなくなったことに対して、悲しみよりも先に「やはり」という感覚が訪れる。冷静でいられる自分に嫌悪を覚えながらも、どうするべきか考え始める。
莉桜はまだ乳児で、何も気づいていない。
蓮は違った。
彼は明らかに沙月がいないことに気づいていた。
「ママ、いないね。」
その言葉には、混乱も悲しみもなかった。
ただ事実を述べただけ。
その無邪気な言葉に、すばるの心臓が強く締めつけられる。
(……ぼくが、沙月を追い出したのか?)
家事も育児もすべて自分がやっていた。
沙月は次第に何もしなくなり、気づけばこの家に居場所を失っていた。
それを、すばるが作り出してしまったのではないか。
彼は、蓮と莉桜を見つめながら、静かに息を呑んだ。
(ぼくが……沙月を、いなくてもいい存在にしてしまったのか?)
それが恐ろしくて仕方なかった。




