荷物
久しぶりに裕樹と遥香と会うことになった。育児や仕事に追われ、長い間、まともに友人たちと過ごす時間を持てていなかった。
家を訪れた遥香と裕樹は、すぐに蓮の異変に気がついた。撫でようとした手を怖がるように避け、目を伏せる。虐待特有の反応だった。
「……蓮、もしかして……?」
遥香が不安げに視線をすばるへ向ける。
その横で裕樹がすばるを外へと誘い出し、小声で問いかけた。
「なあ……すばる、お前……蓮に何かしたのか?」
すばるは一瞬目を伏せた後、深いため息をついた。
「……実は、俺も制御が効かないんだ。わかってる。ダメだって。でも……イライラすると、手が出てしまうことがある。」
すばるの声には、強い後悔と苦しみが滲んでいた。裕樹はその表情を見て、軽く目を閉じた。
「……お前、誰かに相談したことあるのか?」
「……ないよ。」
その場はそれ以上深く追求できなかった。すばるはただ、自分がどうしようもない状況に追い詰められていることを告白するしかなかった。
そのやり取りを遠くから見ていた遥香は、沙月の様子を窺っていた。沙月はリビングでぼんやりと蓮を見つめていた。何もしていない。いや、できていないのだ。
遥香は努めて明るく笑いながら言った。
「すばるは何でもできるけど、たまには息抜きさせてあげなよー?」
その言葉に、沙月の胸がぎゅっと締めつけられた。
(責められてる……?)
遥香はきっと、そんなつもりはなかった。ただの軽口のつもりだったのだろう。
でも沙月には、その言葉が突き刺さった。
(そうだよね……私が何もできないから、すばるがイラついてるんだ。だから、手が出るんだ……)
自分は何もできない。
すばるにすがるだけの存在。
——このままでは、すばるの負担が増えるばかり。
(私という重荷がいなくなれば、すばるの負担も減るのでは……?)
そして、子どもたちを見る自信もない。
その夜、沙月は静かにすばると子ども達の寝顔を見ることしかできなかった。




