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歪む絆

 穏やかに見える日常の中でも、すばるの心には徐々に影が差し始めていた。


 ある日の午後、リビングで蓮と莉桜が遊んでいる時だった。蓮が手に持っていたミニカーを振り回しながら、じゃれ合うようにすばるの方へ駆け寄ってきた。


「パパ、見てこれ!」


 蓮ははしゃぎながら手を上げ、ミニカーを投げる仕草を見せた。その瞬間、すばるは反射的に手を伸ばし、飛んできたミニカーを受け止めた。


「蓮、危ないから投げたらダメだっていつも言ってるでしょ!」


 気づけば、すばるの手がミニカーを握りしめ、次の瞬間にはそれを全力で投げ返していた。


「っ!」


 鈍い音と共に、ミニカーは蓮の額に命中した。蓮は一瞬動きを止めた後、顔を真っ赤にして大声で泣き始めた。


「痛いよ!パパ!」


 泣き叫ぶ蓮を前に、すばるは息を呑んだ。額には大きな痣ができ、赤紫色に腫れ上がっている。


「だから言っただろ!人にものを投げると相手がケガするんだよ!」


 すばるの声は感情的で、厳しさがにじみ出ていた。その場の空気が一気に張り詰め、蓮の泣き声だけが響く。


 莉桜もその様子に驚いたのか、小さな声で泣き出した。


 蓮に冷湿布を当てながら、すばるは自分の行動を思い返していた。何故あの瞬間、力任せに投げ返してしまったのか。その理由が自分でも分からず、ただ胸が苦しかった。


(ぼくは…何をしているんだ?)


 すばるの脳裏に浮かぶのは、自分が幼い頃に受けた父親からの暴力だった。怒鳴られ、叩かれ、怯え続けた記憶がフラッシュバックのように蘇る。


(ぼくもあの人と同じになってしまったのか…?)


 その考えが頭を締め付けるようで、すばるは膝を抱え込んだ。


 その夜、沙月は蓮を寝かしつけた後、リビングに戻り、ソファに座り込んでいるすばるを見た。彼は両手で顔を覆い、どこか怯えた様子を見せていた。


「…すばる、大丈夫?」


 沙月が静かに声をかけると、すばるはゆっくりと顔を上げた。その目は深い闇を抱えているようで、沙月は思わず一歩引いてしまった。


「ぼく…最悪だよ。蓮にあんなことをして…。ぼく、父さんみたいになってる…。」


 すばるの呟きに、沙月は何も返せなかった。ただ、その怯えるような目と震える声が、彼の内面の苦悩を物語っていた。


(こんなすばる、初めて見た…。)


 沙月の胸に、どこか得体の知れない恐怖が芽生え始めていた。その恐怖が何なのか、彼女自身もまだ分かっていなかったが、家族の中に何かが壊れ始めていることだけは感じていた。

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