二つ目の選択
日々の生活は穏やかに流れていたが、沙月の中には少しずつ違和感が積もり始めていた。
「よし、今日は蓮のおもちゃを片付けよう。」
そう思ってリビングに足を踏み入れた沙月だったが、すでにすばるが片付けを済ませており、床はきれいに整えられていた。
「また、すばるがやってくれたんだ。」
その後も、蓮の洗濯物を畳もうとすると、すでに畳まれてタンスにしまわれている。夕食の準備を手伝おうとキッチンに向かうと、すばるが手際よく料理を進めていた。
「…なんだか、私がやることないな。」
最初のうちは「自分も何かしなきゃ」という思いがあった沙月だったが、いつの間にかその気持ちは薄れ、「すばるがしてくれるから大丈夫」という考えに戻ってしまっていた。
そんなある日のこと。リビングで蓮と遊んでいた沙月は、ふと微笑みながら口を開いた。
「ねえ、すばる。」
「ん?どうしたの?」
「蓮って本当にかわいいよね。こんなにかわいいなら、二人目が欲しいなって思ってるの。」
突然の提案に、すばるは一瞬動きを止めた。蓮を見つめる沙月の表情は純粋な幸福に満ちていて、すばるは言葉を詰まらせた。
「…二人目、か。」
沙月は勢いよく頷いた。
「そう!そろそろ蓮も人のことを考えられるようになる頃だし、きっといいお兄ちゃんになれるよ。」
すばるは沙月の言葉を聞きながら、心の中で葛藤していた。自分にはもう一人の命を背負う余裕があるのかどうか。そして、沙月の提案を断る勇気が自分にあるのか。
「でも、ぼく…2年目で育休を取ったばかりだから、またすぐに育休を取るのは難しいと思うんだ。それに、蓮の時みたいにぼくが関わる時間が減るかもしれないけど、それでも大丈夫?」
沙月は少し考え込む様子を見せたが、すぐに笑顔を浮かべた。
「うん、大丈夫だよ。蓮もいるし、私ももっと頑張るから!」
沙月の無邪気な返答に、すばるは返す言葉を失った。彼女のその笑顔に、強く断ることはできなかった。
「…わかった。じゃあ、考えよう。」
沙月はその言葉に満足そうに頷き、蓮と再び遊び始めた。その横顔を見つめながら、すばるの胸には重いものが静かに積み重なっていく。
(これ以上、自分が抱え込んで大丈夫だろうか。でも、断るなんてできない…。)
彼の中で、責任と不安が交錯していた。




