問いかける居場所
育休明けから数か月が経ち、すばるの生活には一定のリズムが戻りつつあった。部活動は主顧問が率先して進めてくれるため、すばるは定時で仕事を終え、真っ直ぐ家へ帰ることができるようになった。
「ただいま。蓮、元気にしてた?」
ドアを開けると、リビングで遊んでいた蓮が振り向き、小さな手を振る。沙月はソファで本を読みながら顔を上げた。
「おかえり、すばる。今日も早かったね。」
「主顧問が部活を見てくれているから助かるよ。その分、家のことに集中できるし。」
すばるは蓮を抱き上げ、キッチンへ向かった。冷蔵庫から材料を取り出し、手際よく夕食の準備を始める。蓮を遊ばせながら食事を作り、同時に洗濯物をたたむ姿を見て、沙月はふと視線を落とした。
(すばるがいないと、この家は回らない。でも、私がいなくても問題ないのかも…?)
心の中にぽつりとそんな考えが浮かぶ。沙月はその感情を振り払おうと、蓮に声をかけた。
「蓮、ママと遊ぼうか。」
蓮は笑顔を見せたが、すぐにすばるの背中を見つめた。
「パーパ。」
その一言に沙月の胸が締め付けられるような気がした。自分にできることは何だろうと、思わず自問してしまう。
ある日、沙月の両親が孫の顔を見に訪れた。久しぶりの再会に、沙月は少し緊張した様子で迎えたが、蓮はすぐに打ち解けた。
「すばるくん、本当に色々やってくれるのね。」
沙月の母が感心したように言った。
「いや、ぼくがやれることをやっているだけです。蓮がまだ小さいから、できるだけ一緒にいたくて。」
「それにしても、いい旦那さんだわ。沙月、あなたも幸せね。」
沙月は母の言葉に微笑みを返したが、内心では複雑な感情が渦巻いていた。
(すばるが褒められるのは当然だよね。でも、私って…何をしてるんだろう?)
一方、父は笑いながら肩をすくめた。
「まあ、適材適所って言うし、これでいいんじゃないか。家のことはすばるくんに任せて、沙月は無理しないで過ごせばいいんだよ。」
その言葉に、沙月は小さく頷いたものの、胸の奥には消えないモヤモヤが残った。
両親が帰った後、沙月はリビングで一人考え込んでいた。
(このままでいいのかな。すばるに全部任せてしまっているけど、私には何ができるんだろう?)
蓮がすばるに向ける笑顔や、両親がすばるを称賛する姿が頭の中を巡る。沙月は目の前に広がる家庭の風景を見つめながら、もう一度自分の役割について考え始めるのだった。




