気づきの朝
蓮が1歳の誕生日を迎えた。夜泣きがなくなり、少しずつ歩くようになった蓮は、好奇心旺盛に家の中を駆け回るようになった。
「蓮、大きくなったね。夜もぐっすり寝てくれるようになって、ぼくも少し楽になったよ。」
すばるは微笑みながら、リビングで蓮と遊んでいる沙月に声をかけた。
「そうだね。本当にかわいくて仕方ないよね。」
沙月も同意し、蓮の手を取って一緒に遊んでいた。
そんな平穏な日々の中、突然すばるが熱を出してしまった。いつも元気な彼がベッドに横たわり、苦しそうに息をしている姿を見て、沙月は驚きと焦りを隠せなかった。
「すばる、大丈夫?病院に行った方がいいんじゃない?」
「大丈夫だよ。少し休めば治ると思うから、今日はお願いしてもいいかな…。」
いつも自分に頼らず何でもこなしていたすばるが、そう言ったことに、沙月は少し戸惑いながらも頷いた。
「うん、任せて。」
沙月は慣れない手つきで蓮の朝食を準備し、おむつを替え、遊び相手をしながら時間を過ごした。しかし、蓮が機嫌を損ねるたびに泣き出し、その対応に追われてしまう。
「泣かないで、蓮…。何が嫌なの?」
必死にあやそうとする沙月だったが、思うようにいかず、次第に焦りが募る。
昼食の準備に取り掛かろうとするも、蓮が足元にまとわりつき、思わず声を荒げそうになる。
「ちょっと待ってて!もう少しで終わるから!」
それでも、どうにか昼食を作り終えた沙月は、蓮に食べさせるため椅子に座らせたが、食べ物を嫌がって全く食べてくれなかった。
「なんで食べてくれないの…。」
沙月は涙ぐみながらも、蓮の機嫌を取ろうと必死だった。その様子を見かねたすばるが、ふらふらとリビングに現れた。
「沙月、大丈夫?ぼくがやるよ。」
「でも、すばるは休んでないと…。」
「平気だよ。少しだけ。」
すばるは慣れた手つきで蓮を抱き上げ、スプーンで食べさせ始めた。蓮はすぐに笑顔を見せ、すんなりと食事を口に運んだ。
「ほら、こうして少しだけにして、口を開けるのを待ってあげると大丈夫だよ。」
その光景を見た沙月は、自分の努力が空回りしていたことに気づき、肩を落とした。
その夜、沙月は蓮を寝かしつけた後、すばるのそばに座り、小さな声で呟いた。
「…すばる、いつもありがとう。今日一日だけで、どれだけ大変だったか分かったよ。」
すばるは微笑みながら答えた。
「蓮も沙月も、ぼくにとって大切な家族だから。これからも一緒に頑張ろう。」
沙月は静かに頷きながら、すばるの負担を少しでも軽くするために、自分ができることを増やしていこうと心に決めた。
(これからは、私ももっと向き合わなきゃ。すばるに頼るだけじゃなくて…。)
そんな沙月の心境の変化を知らないまま、すばるはまた新しい一日を迎える準備を始めるのだった。




