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叫びの夜

 夜中、蓮の泣き声が静かな家に響き渡った。ベビーベッドから聞こえるその声に、すばるは重い瞼を開けた。隣では沙月がぐっすりと眠っている。


「またか…。」


 すばるはため息をつきながらベッドから起き上がり、蓮のもとへ向かった。赤ちゃんの小さな体をそっと抱き上げ、揺りながら優しい声であやし始める。


「よしよし、大丈夫だよ。どうしたの、蓮。」


 泣き声が少し落ち着くのを感じながら、すばるはちらりと沙月の寝顔を見た。その瞬間、心の奥から言葉がこぼれ出た。


「たまには沙月も起きてくれたらいいのに…。」


 沙月の肩を軽く叩き、声をかける。


「沙月、蓮が泣いてるんだけど…。」


 沙月はうっすらと目を開けたが、眠そうな声で答えた。


「ごめんね…疲れてて。今日はお願い…。」


 その言葉に、すばるは何も言えずに口を閉じた。


「…わかった。」


 再び蓮を抱き直し、リビングへと足を運ぶ。ソファに座りながら、蓮の背中を優しくさする。泣き声は次第に弱まり、やがて赤ちゃんは静かに目を閉じた。


 すばるは深く息をつき、頭をソファの背もたれに預けた。


(沙月も疲れてるんだ。それは分かってる。でも…ぼくだって。)


 自分の心に湧き上がる不満を抑え込むように、すばるは目を閉じた。蓮の温かさを感じながら、心の中で繰り返し言い聞かせる。


(これがぼくの役割なんだ。蓮のために、沙月のために、ぼくがやるべきことなんだ。)


 翌朝、沙月がリビングにやって来たとき、すばるはすでに蓮のミルクを準備していた。


「すばる、昨日もありがとう。ほんと助かるよ。」


 沙月は無邪気な笑顔でそう言った。その言葉を聞き、すばるは微かに笑みを浮かべた。


「うん、大丈夫だよ。蓮も少しずつ慣れてきたみたいだし。」


「そうだね。でも、すばるがいるから私も安心して任せられるんだよ。」


 沙月の言葉には悪気はない。それはすばるにも分かっていたが、その無邪気さが彼の胸を締め付けた。


(任せられる…それって、ぼくが全部やるってことだよな。)


 蓮が満足そうにミルクを飲む様子を見ながら、すばるは静かに心の中で呟いた。


(これでいい。ぼくが全部やれば、沙月も蓮も幸せでいられるんだから。)


 それでも、その夜の「たまには沙月も」という言葉が、彼の胸に小さな棘のように残り続けていた。

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