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幸福の礎

 蓮が生まれてから1か月が過ぎた。新生児特有の夜泣きや不規則な生活リズムに、すばるは慣れないながらも必死で対応していた。


「よしよし、大丈夫だよ、蓮。」


 深夜、泣きじゃくる蓮を抱き上げ、すばるは静かに揺らしながら寝かしつけていた。隣の寝室では、沙月が穏やかな顔で眠っている。


(沙月は産後で大変だろうから、ぼくがやらなきゃな。)


 そう思いながらも、蓮をあやし続けるすばるの表情には疲労の色が浮かんでいた。


 翌朝、リビングに降りると、沙月がソファに座ってテレビを見ていた。


「おはよう、すばる。蓮、寝た?」


 沙月はにこやかにそう言ったが、まだパジャマ姿のままだった。すばるは眠そうな目をこすりながら頷いた。


「なんとか寝てくれたよ。夜中も結構泣いてたけど。」


「そっか、大変だったね。でも、すばるが上手だから安心して任せられるよ。」


 沙月の何気ない言葉に、すばるは一瞬何かを言おうとしたが、飲み込んだ。


「ありがとう。今日は何か手伝うことある?」


「うーん、特にないかな。蓮が起きたら遊んであげようと思ってる。」


 沙月はそう言って微笑んだが、それ以外の家事や育児についての話題は出なかった。


 すばるは仕事を終えて帰宅すると、まず蓮のおむつを替え、次にミルクの準備をするのが日課になっていた。沙月はリビングでスマートフォンをいじりながら、時折蓮に「かわいいね」と声をかけるだけだった。


「お風呂はぼくが入れるから、蓮のパジャマだけ用意してくれる?」


 すばるがそう頼むと、沙月は「うん、わかった」と立ち上がり、手際よくパジャマを準備した。だが、それ以上のことは任せるように見えた。


 風呂場では、すばるが慎重に蓮を洗い、湯上がりのケアまで済ませていた。蓮をタオルで包んで寝室に連れて行く頃には、すばるの体力も限界に近かった。


「すばる、ほんと頼りになるね。蓮も安心してるみたい。」


 沙月がそう言いながら笑顔を向けるが、すばるの心には小さな疑問が渦巻いていた。


(どうして沙月はもっと積極的にやらないんだろう?いや、産後だし無理させちゃいけない。でも…これがずっと続くのかな。)


 夜、蓮が眠った後、すばるは一人リビングで深く息をついた。蓮の寝顔を思い浮かべると、心の底から愛おしいと思う。だが、その一方で、自分の負担が大きいことに気づかない沙月への苛立ちもわずかに感じていた。


「ぼくがやらなきゃいけないんだ。」


 そう自分に言い聞かせ、すばるは冷たいお茶を一口飲んだ。そして、また明日も頑張ろうと心の中で誓った。

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