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行き先

 休日の午後、沙月とすばるは沙月の実家へと向かっていた。駅から歩いてほどなく見えてきた白石家の玄関先は、小さな庭に色とりどりの花が咲き、どこか温かみを感じさせる雰囲気が漂っていた。


「緊張してる?」


 沙月が少し心配そうにすばるの顔を覗き込むと、すばるは苦笑いを浮かべながら頷いた。


「まあね。沙月のご両親にちゃんと受け入れてもらえるか、正直不安だよ。」


「大丈夫だって。お父さんもお母さんも、電話で話した感じだと悪い印象じゃなかったし。」


 沙月が笑顔でそう言うと、すばるは少しだけ気持ちが軽くなったような気がした。


 玄関のチャイムを押すと、すぐに沙月の母親が出迎えてくれた。


「沙月、おかえり。あら、すばるくんね。いらっしゃい。」


 にこやかに迎える母親の後ろから、父親も姿を現した。


「沙月から電話で聞いているよ。でも、すばるくんにはまだ会ったことがなかったから、今日は楽しみにしてたんだ。」


「ありがとうございます。」


 リビングに案内されると、テーブルにはお茶とお菓子が並べられていた。両親が向かいのソファに座ると、すばるは改まった表情で口を開いた。


「本日はお時間をいただきありがとうございます。そして、沙月さんとの交際のご挨拶もなく、突然のご報告となり申し訳ありません。本来であれば、交際のご報告をしたのち、ご両親と信頼を育み、そのうえで結婚や妊娠の報告をするべきでした。それができず、何より沙月さんの人生を急に変えてしまい、本当に申し訳ありません。」


 すばるが深く頭を下げると、父親は少し驚いたように目を丸くした。しかしすぐに柔らかな表情を浮かべ、頷いた。


「いや、すばるくん。その誠意ある謝罪で十分だよ。沙月のことを大切に思ってくれているのが伝わってきた。」


 母親もにっこりと微笑みながら、穏やかな声で言葉を添えた。


「本当にそうね。実を言うと、この子、昔から自信過剰なのか心配性なのか分からない性格で、よく振り回されたものよ。それにまともに家事すら教えたこともなかったけど、今じゃすばるくんのおかげで少しできるようになっているんでしょう?こんな子はむしろ嫁の貰い手がないと思っていたから、すばるくんみたいな人に拾ってもらえて、本当にありがたい話よ。」


 その言葉に沙月は照れくさそうに笑みを浮かべた。


「お母さん、それ言いすぎだってば。」


「いやいや、本当の話だよ。お母さんの遺伝子が強くて、見た目だけは一流だからな。」


 父親がそう冗談めかして言うと、すばるは苦笑いを浮かべながらも嬉しそうに頷いた。


「変な男もたくさんいたけど、すばるくんは高校の先生だ。こんなに安心する男はいないよ。」


「ありがとうございます。沙月さんとこれから一緒に頑張っていきます。」


 すばるが頭を下げると、母親はさらににっこりと笑った。


 その日の夜、二人は沙月の実家から戻り、アパートのリビングで話し合いをしていた。


「ねえ、すばる。どっちの姓にするか、決めなくちゃいけないよね。」


 沙月がそう切り出すと、すばるは少し考え込んだような顔をした。


「そうだね。僕はどっちでもいいけど…沙月はどうしたい?」


 沙月は少しの間黙っていたが、やがてゆっくりと口を開いた。


「この23年間で白石家との絆を育んできた。でも、これからは星宮家とも繋がれるように、新たなスタートということで…星宮沙月として生きていきたい。」


 その言葉に、すばるは驚いたように沙月を見つめた。


「本当にいいの?白石のままでも僕は構わないよ。」


「うん。でも、星宮沙月として一緒に頑張りたいの。」


 沙月の決意を聞いたすばるは、小さく頷いて微笑んだ。


「分かった。これから一緒に頑張ろう。」


 二人は手を取り合い、新しい未来へ向けて歩み始める決意を新たにした。

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