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審判

 すばるは深呼吸をしながら、スマートフォンを握りしめた。画面には母親の名前が表示されている。震える指で発信ボタンを押すと、数回のコール音の後、母の明るい声が耳に届いた。


「すばる?どうしたの、急に。」


「…母さん、少し話があるんだ。」


 母親はいつも通りの温かい声で答えた。


「話?何かいいことでもあったの?」


 その無邪気な反応に、すばるは一瞬口ごもった。しかし、覚悟を決めてゆっくりと口を開いた。


「話したいことがあるから、一度帰ろうと思って。近いうちに沙月と一緒に行くよ。」


 母親は一瞬の沈黙の後、驚いたように答えた。


「沙月?…あの沙月さん?」


「そうだよ。ちゃんと話したいことがあるから、直接会って話すのがいいと思ったんだ。」


 母親はわずかにため息をつきながらも、冷静な声を保って返事をした。


「そう。なら、都合をつけるわ。いつ頃来るの?」


「今週末くらいになると思う。」


「分かったわ。待っているから。」


 電話を切ると、すばるは大きく息を吐いた。覚悟を決めたとはいえ、これからのことを考えると胸の内は重苦しい。


 週末、すばると沙月は電車に乗り、実家へと向かった。車内で沙月は少し緊張した様子を見せながらも、どこか浮き立つような笑顔を浮かべていた。


「大丈夫だよ、すばる。ちゃんと話せば分かってもらえるって。」


 沙月のその言葉に、すばるは微かに笑みを浮かべるが、その心は落ち着かなかった。


 実家に着くと、母親が玄関で迎えてくれた。久しぶりに見る母の顔はどこか複雑な表情をしていたが、丁寧に挨拶をする沙月に一応の笑顔を見せた。


「いらっしゃい、沙月さん。どうぞ、中へ。」


 リビングでお茶を出され、すばると沙月は向かい合う形で座った。母はしばらく二人を見つめていたが、やがて口を開いた。


「それで、話って何?」


 すばるは深く息を吸い込み、視線を母に向けた。


「実は…沙月との間に子どもができたんだ。それで、これから一緒にやっていくことにした。」


 その言葉に、母の表情が凍りついた。沈黙が訪れた後、母はゆっくりと口を開いた。


「…子どもが?」


「はい。今、安定期に入ったところです。」沙月が笑顔で答える。しかし、母の目は冷たく光り、その視線は鋭く二人を射抜いていた。


「どうして今日までに報告をしなかったの?」


 母の声は静かだったが、その裏に潜む怒りは明らかだった。すばるは少し俯きながら答えた。


「…言うタイミングを掴めなくて…。でも、今はちゃんと報告しようと思って…。」


「掴めなかった?いつでも連絡をすればいいじゃない。そもそもいつから知っていて、このことを黙っていたわけ?」



 母の声は徐々に冷たさを増し、すばるは言葉を探しながら絞り出すように答えた。


「最近聞いたんだ。沙月も、不安だったみたいで…。僕もどうすればいいか分からなくて…。」


 その言葉に、母は深いため息をついた。


「じゃあ、それで半年近くも隠されていたってこと?そんな大事なことを隠していた相手と一緒に生きるの?」


「でも、今はもう隠していないし、ちゃんと話してくれたんだ。」


「お母様、報告が遅くなったことは謝ります。私も自分と彼の人生を考えて、悩んでいたらこんなにも遅くなってしまいました。」


 2人が必死に言い訳をするが、その言葉は母をさらに逆撫でするだけだった。


「考えた?それで子どもができたからって、それだけで結婚を決めたの?もっと早くに相談ができていれば、色々な選択肢もとれたし、これからの準備だって落ち着いてできたわ。結局のところ、すばるが断れないタイミングまで待っただけじゃない。それにすばるも全然沙月さんのことを見ていないから、こんなことになったわけよね。本当に呆れるわ。」


「言っていることはわかるけど、僕なりに色々考えたつもりなんだ。」


 すばるの声が途切れると、母は冷たい声で畳みかけた。


「考えたつもり?あなたの考えなんて甘すぎるのよ。馬鹿同士で子どもを作って、そんな馬鹿が子どもを育てていくなんて考えられないわ。」


 母の言葉は冷たく鋭く、すばるの胸に深く突き刺さった。沙月もその言葉に明らかに傷ついた様子だったが、何も言い返せなかった。


「だから、あんたたちは駄目なのよ。」


 その場の空気は重く沈黙し、母の冷たい視線だけが二人に突き刺さっていた。

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