確固たるもの
翌朝、すばるは早く目を覚ました。隣で穏やかな寝息を立てる沙月の姿を見つめる。彼女の顔はどこか満ち足りた様子で、カミングアウトを終えた安心感が伺えた。
(これが、僕の責務だ。)
すばるは心の中で自分に言い聞かせるように呟いた。沙月が抱えていた不安を受け止めるのは、自分がしなければならないことだと。幸せそうな彼女の表情を見るたびに、すばるの胸には重く冷たい何かが沈んでいく。
(沙月の人生を奪ったのは僕だ。だから、僕が償わなければならない。)
そう思う一方で、逃げたいという感情がふと頭をよぎる。しかし、それを瞬時にかき消し、布団から体を起こした。
「…沙月が安心して過ごせるなら、それが一番だ。」
自分に言い聞かせるように小さく呟く。その声は、隣で寝ている沙月には届かない。
朝食を終えた後、すばると沙月はリビングのソファに座り、向かい合っていた。これからのことを話し合うためだ。
「まず、入籍までに準備しなきゃいけないことを考えないと。」
すばるが冷静な口調で切り出すと、沙月は嬉しそうに頷いた。
「うん、そうだね。書類のこととか、住む場所のことも考えないと。」
沙月が笑顔で言う姿を見て、すばるは一瞬、胸の奥に痛みを感じた。しかし、その痛みを押し殺し、必要なことを淡々と整理する。
「それと、僕の母さんにも報告しないといけない。」
その言葉に、沙月の表情が少し曇った。
「…お母さん、怒らないかな。」
沙月の不安げな声を聞いて、すばるは少し考え込む。自分の母親が沙月に対して好意的ではないことは分かっていた。それでも、報告を避けることはできない。
「怒られるかもしれない。でも、僕たちのことだから、ちゃんと話すよ。」
すばるのその言葉に、沙月は少しだけ安心したように見えた。
「ありがとう、すばる。」
その笑顔が、すばるには遠いものに感じられる。それでも、彼は自分の責務を全うする覚悟を新たにした。
(もう逃げるわけにはいかない。僕がすべてを受け止めるしかないんだ。)
すばるの中で、覚悟が静かに固まっていく。
夕方、すばるは母に電話をかけた。報告のためだ。受話器の向こうから聞こえる母の声はいつも通りだったが、すばるの胸の中は緊張でいっぱいだった。
「…母さん、話があるんだ。」
自分の声が少し震えているのを感じながらも、すばるは言葉を続けた。
(どんな反応をされても、僕がしっかり話さなきゃいけない。)
その覚悟を胸に、すばるは深く息を吸い込んだ。




