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学校での変化と葛藤

 すばるの小さな手は、無意識に鉛筆を握りしめていた。


 教室の一角に座り、目の前のノートに何度も線を引く。


 指の間に力が入りすぎて、紙が破れそうになった。けれど、それでも彼の目は決してノートを見ていなかった。


 耳を澄ませると、教室に漂うクラスメイトたちの笑い声がどこか遠く感じられた。


 目を閉じれば、家で聞こえていた父親の怒鳴り声がまだ耳の奥に残っているのだ。


 それでも、すばるには少しだけ違った感覚があった。


 教室での、クラスメイトたちとの何気ないやりとり、麻子先生の温かい言葉、そして少しずつ増えてきた友達。


 そのすべてが、すばるを少しずつ包み込んでいくような気がしていた。


 昼休み、すばるはいつものように一人で座っていたベンチに、少しだけ近づいてきた男の子の声にハッと顔を上げた。


 目の前には、クラスの同級生の圭吾が立っている。


 圭吾はやや照れくさそうに笑い、すばるの隣に座った。


 すばるは最初、どう反応していいか分からず、短く返すだけだった。


「うーん、まあ、普通だよ。」


 圭吾はその言葉を受けて、肩をすくめて笑った。


 そこから少しずつ会話が続いた。


 最初はぎこちなかったものの、徐々に打ち解けていった。


 今までは自分から何も話せず、周囲の人々との関係を避けてきたすばるだったが、今日は違った。


「すばる、ゲームとか好きだろ?今度一緒に遊ぼうぜ。」

 圭吾は顔を真剣にしながらも、嬉しそうに言った。


 その言葉に、すばるの心に一瞬の温かさが広がった。今まで、他の子と関わることを避けてきた自分が、少しずつ、でも確実に変わり始めている。それが彼にとっては大きな一歩であり、何より心地よかった。





 しかし、その変化はすぐに家庭での現実にぶつかることになる。


 すばるが家に帰ると、いつものように静かな恐怖が彼を迎え入れた。


 冷たい風が窓から入り込み、家の中は妙に静かで、どこか重苦しい空気が漂っていた。


 すばるの胸は、無意識に苦しくなり、息を呑んだ。


 居間に入ると、母親がソファに座り、しばらく考え込んでいるようだった。すばるの足音に気づいた母親が顔を上げる。


「おかえり、すばる。」


 その声は、どこか疲れた様子で、いつもの明るさはなかった。すばるは黙って頷き、靴を脱いでその隣に座った。


「お父さんも今帰ってるんだって。」


 その言葉に、すばるの胸がぎゅっと締め付けられた。父親は今日もいる。父親の機嫌が悪ければ、またあの怒鳴り声が響き、ものが飛んでくるのだ。


 玄関からドタドタと足音が響き、大きな音を立ててドアが開いた。


「ただいま。」

 その声に、すばるの身体が硬直した。


 家の中が静まり返り、すばるは無意識に息を止めた。

「お前、また何かやらかしてるんじゃないだろうな?」

 父親の低い声が響き、すばるは心の中で祈った。


 今日は何もないように、と。


 だが、その希望はすぐに打ち砕かれた。

「すばる、お前、何か問題を起こしたんじゃないか?」


 母親が父親をなだめようとしたが、父親は冷ややかな視線を向けるだけだった。

「お前がいくら言ったところで、こいつはどうせダメなんだよ。」


 すばるは母親の疲れた顔を見たが、彼女の目には涙をこらえているような表情が浮かんでいた。


「どうして僕だけがこんなに苦しいんだろう。」


 その思いを抱えながら、すばるは自分の部屋に戻った。


 学校で少しずつ変わり始めている自分と、家で何もできない自分。


 そのギャップに、すばるは胸を締め付けられる。





 それでも、すばるには希望があった。


 麻子先生が、放課後にいつも声をかけてくれる。


「すばる君、今日はどうだった?」


 その優しい言葉に、すばるは少しだけ微笑んで答える。


「少しだけ、友達と話せたよ。」


「それは素晴らしいことだよ。」


 麻子先生のその言葉は、すばるにとって大きな支えだった。


「すばる君、君には力があるんだよ。少しずつ前に進んでいけば、きっと何かが変わる。」


 その言葉を胸に、すばるは少しずつ自分を変えていくことを決めた。


 夜、ベッドの中で麻子先生の言葉を思い出しながら、すばるは少しずつ眠りについた。


 家庭の恐怖はまだ消えないが、それでも少しずつ未来を信じ始めている自分に気づいていた。



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