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真実の時

 すばるが仕事から帰宅すると、沙月はキッチンで簡単な夕食の準備をしていた。少し前まで体調を崩していた沙月が、こうして台所に立っている姿に、すばるは心の底から安堵した。


「最近、元気そうでよかった。」


 すばるが優しい声で声をかけると、沙月は振り返り、照れくさそうに笑った。


「うん、やっと調子が戻ってきたみたい。迷惑かけちゃったね。」


「そんなことないよ。無理しないでって言ったのに、頑張りすぎなんだよ。」


 すばるはカバンをソファに置き、沙月の隣に立った。彼女が鍋をかき混ぜる姿をしばらく眺めていたが、ふと心配そうに眉をひそめた。


「でもさ、少し前まで食欲なさそうだったのに、急に元気になったよね。ほんとに大丈夫?」


 その言葉に、沙月の手が一瞬止まる。そして、まるで意を決したように鍋から目を離し、すばるを見つめた。


「ねえ、すばる。実は…」


 沙月の真剣なトーンに、すばるは思わず息を呑んだ。


「どうしたの?」


「…私、子どもができたんだ。すばるとの子。」


 静かな部屋にその言葉が響く。すばるは一瞬何を言われたのか理解できず、目を見開いたまま固まってしまった。


「…え?」


「だから…私のお腹に、すばるとの赤ちゃんがいるの。」


 その言葉にすばるは思考が一瞬止まり、次に押し寄せたのは言い表せないほどの焦りだった。


「ちょ、ちょっと待って。いつから…いや、なんで早く言わなかったんだ?」


 すばるの問いに、沙月は視線を少しだけ落とし、困ったように笑った。


「ごめんね…いろいろ理由があったの。教師になってまだ1年しか経ってないから、邪魔しちゃいけないって思ったし…」


 言葉を選ぶように、沙月は続ける。


「それに、すばるが私から離れていくのが怖かった。もし『おろしてくれ』なんて言われたら…そう思うと怖くて言えなかったの。」


 その言葉を聞き、すばるの胸に複雑な感情が広がった。怒りでも、驚きだけでもない。ただ、自分が思い描いていた未来が一気に変わってしまう感覚に戸惑っていた。


「…それで、今は?」


 すばるが搾り出すように尋ねると、沙月は小さく頷いた。


「安定期に入ったから、体調も良くなってきたの。だから、もう隠しておくのはやめようって決めた。」


 すばるは言葉を失い、ただ沙月を見つめた。すでにお腹の中で命が育っている事実に、逃げることはできない。大きな責任感が胸を締め付けるようだった。


「…そうか。」


 そう言ったきり、すばるは深く息をついた。そして、まるで自分に言い聞かせるように言葉を続けた。


「とりあえず、まずは親に報告しないと。でも、その前に…」


 沙月が不安そうな顔で次の言葉を待つ。


「ちゃんと、俺たちの関係をはっきりさせよう。…もう一度、付き合ってほしい。」


 沙月の目が一瞬見開かれ、次の瞬間には涙がこぼれた。彼女は静かに頷き、すばるの言葉を受け入れた。


「…ありがとう。見捨てないでくれて。」


 すばるはその言葉に何も返せなかった。ただ、これからの道のりが簡単ではないことだけははっきりと分かっていた。

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